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【小説新人賞さらっと解説】江戸川乱歩賞とおすすめ作品

国内最高峰のミステリー新人賞

国内の小説新人賞、とくにミステリーにおいては、最高峰の歴史と実績を持つ賞。

それが江戸川乱歩賞。

実にハイレベルな応募者がそろう。なぜなら「新人」に応募資格があるだけで、デビュー済みの作家も応募は可能(案外、そういう賞は多い)だからだ。

そのため、過去に別の賞で受賞した作家が応募してくる。最近だと「QJKJQ」の佐藤究さん(群像新人文学賞優秀作を受賞)がそう。それだけ魅力を感じて応募してくる人が多いということだろうか。

江戸川乱歩賞の詳細

■雑誌:小説現代。江戸川乱歩賞ホームページ

■主催:日本推理作家協会。後援は講談社とフジテレビジョン

■応募内容:広い意味での推理小説。自作未発表のもの

■規定枚数:400字詰め原稿用紙350~550枚

■正賞:江戸川乱歩像。副賞:1,000万円。また、講談社が出版する受賞作の印税全額

■締切:毎年1月末日(当日消印有効)

■受賞者の発表:6月

■発表:第一次~三次予選選考経過を5月号(4月22日発売)の「小説現代」誌上に掲載。二次選考通過作品には寸評。7月号(6月22日発売)「小説現代」誌上で最終選考の選評

4月22日発売の5月号を見ると、一次通過、二次通過者の掲載のみに変更となっていた。次回からはウェブ上(小説現代のサイト)で選考経過と選評が掲載されるとのこと。掲載時期は未記載。

二次通過者の講評、最終候補者は5月22日発売の6月号に掲載されていました。

6月7日(木)に受賞作が発表されました! 斎藤詠月さん(44)の「到達不能極」が受賞です。

これまでより一ヶ月ほど遅くなるのが慣例になるかもしれません。

■選考委員:新井素子(新)、今野敏、月村了衛(新)、貫井徳郎、湊かなえ

次回の選考委員は、池井戸潤と辻村深月が抜け、新たに新井素子、月村了衛が入った。いったいどんな選考になるのか、今から楽しみ。

■応募総数:300~400作前後。一次通過100作前後。二次通過25作前後。最終候補5作程度

賞金が1,000万円と高額。「このミステリーがすごい」大賞の1,200万円には後塵を拝するものの、国内でもトップクラスだ。

選考委員も豪華。おおむね3~5年くらいで一人か二人が入れ替わる。次回の選考委員は上記のとおりに変更となった。

なお、選評は「日本推理作家協会のサイトで読むことができる。

江戸川乱歩賞に応募するなら

基本的には社会派ミステリーが好まれる傾向がある。ただ、「QJKJQ」のような奇抜な作品(乱歩賞において、だが)が選ばれるケースも出てきている。

昨年は「受賞作なし」だった。これだけの賞であっても、変化を求められている時がきているのかもしれない。

とはいえ本格トリックよりは、社会派だったり人間ドラマだったり、そうした作品が好まれそうではある。うなるくらいの本格的なトリックを駆使していても評価されるだろうが、それに加えて背景や動機をしっかり書き込む必要はあると僕は考える。

いずれにしても応募者としては、ライバルの手強さを考慮すると渾身の一作で臨みたいところ。



江戸川乱歩賞のおすすめ受賞作品

それでは最後に、おすすめ受賞作品をご紹介。60回を超える歴史ある賞だけに、力作ぞろい。

第62回(2016年度):「QJKJQ」佐藤究

猟奇殺人鬼一家の長女として育った、17歳の亜李亜。一家は秘密を共有しながらひっそりと暮らしていたが、ある日、兄の惨殺死体を発見してしまう。

直後に母も姿を消し、亜李亜は父と取り残される。何が起こったのか探るうちに、亜李亜は自身の周りに違和感を覚え始め―。

★「QJKJQ」オススメポイント
乱歩賞史上、かなり特殊な作風。問題作と言ってもいいかもしれない。

群像新人文学賞優秀作の受賞者でもあり、文章は流れるように頭に入ってくる。ただし着地の仕方に納得できない読者もいるだろう。作品全体の雰囲気で勝負するタイプ。

https://norifune.com/bungei/novel_review/qjkjq

第60回(2014年度):「闇に香る嘘」下村敦史

孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された村上和久は、兄の竜彦を頼る。

しかし、移植どころか検査さえ拒絶する竜彦に疑念を抱く。目の前の男は実の兄なのか。

27年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。驚愕の真相が待ち受ける江戸川乱歩賞受賞作。

★「闇に香る嘘」オススメポイント
盲目の主人公という難易度の高い設定だが、それを逆に生かし切れている。題材や文章はやや硬いが、カタルシス大。

https://norifune.com/bungei/novel_review/yaminikaoruuso

第51回(2005年度):「天使のナイフ」薬丸岳

生後五ヵ月の娘の目の前で妻は殺された。だが、犯行に及んだ三人は、十三歳の少年だったため、罪に問われることはなかった。

四年後、犯人の一人が殺され、檜山貴志は疑惑の人となる。「殺してやりたかった。でも俺は殺していない」。

裁かれなかった真実と必死に向き合う男を描いた、第51回江戸川乱歩賞受賞作。

★「天使のナイフ」オススメポイント
過去の事件と現在の事件を巧みに絡めている。

「なぜ?」「誰が?」「この先どうなる?」という気持ちにさせ、先が気になって仕方がない。文章も読みやすく、小説を読み慣れていない方もすんなりと世界に入っていけるだろう。

第47回(2001年度):「13階段」高野和明

犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。

だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。

二人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。

★「13階段」オススメポイント
死刑執行までの限られた時間の中で解決しなければいけないという設定がうまい。

無実であるならば、当然真犯人が存在するわけだし、犯人側も調査を邪魔しようとする。その駆け引きが、数々のサスペンス効果を生む。

第46回(2000年度):「脳男」首藤瓜於

連続爆弾犯のアジトで見つかった、心を持たない男・鈴木一郎。

逮捕後、新たな爆弾の在処を警察に告げた、この男は共犯者なのか。男の精神鑑定を担当する医師・鷲谷真梨子は、彼の本性を探ろうとするが…。

そして、男が入院する病院に爆弾が仕掛けられた。全選考委員が絶賛した超絶の江戸川乱歩賞受賞作。

★「脳男」オススメポイント
こちらも乱歩賞の中では異色と言える。鈴木一郎のキャラクター造形はやや漫画チックだが、物語を読ませる力がある。

第44回(1998年度):「果つる底なき」池井戸潤

「これは貸しだからな」。謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員・坂本が死んだ。

死因はアレルギー性ショック。彼の妻・曜子は、かつて伊木の恋人だった…。

坂本のため、曜子のため、そして何かを失いかけている自分のため、伊木はただ一人、銀行の暗闇に立ち向かう! 第四四回江戸川乱歩賞受賞作。

★「果つる底なき」オススメポイント
今や企業小説の旗手である池井戸潤のデビュー作。

主人公は銀行員のため、やはりその手の舞台が得意なのだろう。ミステリーとしては安心して読めるタイプ。

第41回(1995年度):「テロリストのパラソル」藤原伊織

アル中のバーテン・島村は、ある朝いつものように新宿の公園でウイスキーを呷った。

ほどなく、爆弾テロ事件が発生。全共闘運動に身を投じ指名手配された過去を持つ島村は、犠牲者の中にかつての仲間の名を見つけ、事件の真相を追う―。

乱歩賞&直木賞を史上初めてダブル受賞した傑作。

★「テロリストのパラソル」オススメポイント
世界観と文章が抜群だが、表現などが鼻につく読者もいるかもしれない。
しかしそれも含めて「藤原ワールド」と受け取れば、むしろ物語に没頭できるだろう。

全共闘時代に青春を生きた人(僕は残念ながら後の世代ですが)ならば、より共感できるはず。

第37回(1991年度):「連鎖」真保裕一

チェルノブイリ原発事故による放射能汚染食品がヨーロッパから検査対象外の別の国経由で輸入されていた!

厚生省の元食品衛生監視員として、汚染食品の横流しの真相突明に乗りだした羽川にやがて死の脅迫が……。

重量感にあふれた、意外性豊かな、第37回江戸川乱歩賞受賞のハードボイルド・ミステリー。

★「連鎖」オススメポイント
元食品衛生監視員を主人公に据えた、典型的な社会派&お仕事ミステリー。

さまざまな知識をベースに、サスペンスが進行していく。ハードボイルドかどうかは意見はわかれそうだが、堅実な一作には違いない。

第31回(1985年度):「放課後」東野圭吾

校内の更衣室で生徒指導の教師が青酸中毒で死んでいた。

先生を二人だけの旅行に誘う問題児、頭脳明晰の美少女・剣道部の主将、先生をナンパするアーチェリー部の主将―犯人候補は続々登場する。

そして、運動会の仮装行列で第二の殺人が…。乱歩賞受賞の青春推理。

★「放課後」オススメポイント
現在のミステリー界のトップに君臨する東野圭吾もまた、江戸川乱歩賞を受賞している。

ライトな学園ものに思えるが、ふたつの殺人事件がミステリーを牽引する。トリックなども申し分ないが、犯行動機については賛否あるかもしれない。

第29回(1983年度):「写楽殺人事件」高橋克彦

謎の絵師といわれた東洲斎写楽は、一体何者だったか。後世の美術史家はこの謎に没頭する。大学助手の津田も、ふとしたことからヒントを得て写楽の実体に肉迫する。

そして或る結論にたどりつくのだが、現実の世界では彼の周辺に連続殺人が起きていて―。浮世絵への見識を豊富に盛りこんだ、第29回江戸川乱歩賞受賞の本格推理作。

★「写楽殺人事件」オススメポイント
歴史物が苦手な方でも、ストーリー自体は現代なのでとくに問題はないだろう。

写楽の謎を解きながら殺人事件の謎も解くという、スケール感のバランスが絶妙。

第28回(1982年度):「焦茶色のパステル」岡嶋二人

競馬評論家・大友隆一が東北の牧場で銃殺された。ともに撃たれたのは、牧場長とサラブレッドの母子・モンパレットとパステル。

隆一の妻の香苗は競馬について無知だったが、夫の死に疑問を抱き、怪事件に巻き込まれる。裏にある恐るべき秘密とは? 

ミステリー界の至宝・岡嶋二人のデビュー作&江戸川乱歩賞受賞作。

★「焦茶色のパステル」オススメポイント
競馬が題材のミステリー。主人公である女性が競馬について無知という設定なので、読者が競馬に詳しくなくても、ストーリーを充分に楽しめる。トリックの出来映えも出色。

第28回(1981年度):「原子炉の蟹」長井彬

関東電力九十九里浜原発の建屋内で、一晩中多量被曝した死体がドラム缶詰めで処分されたという。

失踪した下請け会社の社長か!? だが中央新聞の大スクープは一転、捏造記事に。

事実は隠蔽され、原子炉という幾重にも包囲された密室が記者らの前に立ちはだかる。

★「原子炉の蟹」オススメポイント
3.11より30年も前に書かれたというのに驚かされる。殺人の舞台は原子炉建屋。

今読んでみると、さまざまな思いが込み上げてくるのではないだろうか。

第26回(1980年度):「猿丸幻視行」井沢元彦

奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞くときぞ秋は悲しき――百人一首にも登場する伝説の歌人、猿丸大夫が詠んだ歌に秘められた謎。

そして“いろは歌”に隠された1000年の暗号とは? 友人の不可解な死に遭遇した、後の民俗学の巨人・折口信夫の若き日の推理が、歴史の深い闇をあぶりだす。

江戸川乱歩賞受賞の永遠の傑作!

★「猿丸幻視行」オススメポイント
かなりぶっ飛んだ設定だが、「謎」の魅力に引き込まれ、いつしか読者も折口信夫とともに推理をおし進めている。

さすがは「逆説の日本史」で名を馳せた井沢元彦のデビュー作である。

第15回(1969年度):「高層の死角」森村誠一

大ホテルの社長が、自社ホテルで刺殺された。部屋は外扉、内扉の二重の密室。

捜査陣は社長秘書に疑いの目を向けるが、彼女には捜査員の平賀刑事と一夜を共に過ごしたという完璧なアリバイがあった。

だが直後、その秘書も福岡のホテルで死体となって発見される。愛と使命に悩みながら、平賀は犯人を追う。

ホテルを舞台に、密室とアリバイ崩しに挑む本格推理の金字塔。

★「高層の死角」オススメポイント
ミステリー界の大御所・森村誠一のデビュー作。ホテルマンの経験を生かしたストーリーはリアルだ。

1969年の受賞作だが、古くささはあまり感じない。おさえておきたい一冊だろう。

第11回(1965年度):「天使の傷痕」西村京太郎

武蔵野の雑木林でデート中の男女が殺人事件に遭遇。瀕死の被害者は「テン」と呟いて息を引き取った。

意味不明の「テン」とは何を指すのか。デート中、事件を直接目撃した田島は、新聞記者らしい関心から周辺を洗う。事件の背後には予想もしない暗闇が広がっていた。第11回江戸川乱歩賞受賞作。

★「天使の傷痕」オススメポイント
トラベルミステリー界の巨人・西村京太郎の受賞作。トリックなどより社会問題に重きを置いた設定なので、こちらはちと古さを感じるか。

多作で著名な西村京太郎だが、社会派に原点があるということを知るにはいい作品だろう。

第3回(1957年度):「猫は知っていた」 仁木悦子

時は昭和、植物学専攻の兄・雄太郎と、音大生の妹・悦子が引っ越した下宿先の医院で起こる連続殺人事件。

現場に出没するかわいい黒猫は、何を見た?ひとクセある住人たちを相手に、推理マニアの凸凹兄妹探偵が、事件の真相に迫ることに―。

鮮やかな謎解きとユーモラスな語り口で一大ミステリブームを巻き起こし、ベストセラーになった江戸川乱歩賞受賞作が、装いも新たに登場。

★「猫は知っていた」オススメポイント
昭和30年代の作品だが、色褪せない鮮やかさを保っている。
舞台やトリックの道具などはさすがに古いが、ライトな語り口は今でも通用するのではないか。

公募形式となった乱歩賞の初の受賞作ということで、歴史をひもとく意味でも読んでおきたい一冊。


以上、おすすめ作品でした!

江戸川乱歩賞は、日本のミステリーと60年以上もの長きに渡って併走し続けている。

興味を持ったらぜひすべて読んでみてもらいたい。日本ミステリーの歴史の一端を垣間見ることができるはずだから。

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