吉澤嘉代子

もうひとつの吉澤嘉代子の世界「みつあみクインテットツアー」ライブレポート

吉澤嘉代子「みつあみクインテットツアー」

12月14日(金)に銀座ヤマハホールで開催された、吉澤嘉代子「みつあみクインテットツアー」に行ってきました。2018年はファンクラブイベントも含めて5回目の吉澤嘉代子であり、今年のライブ納め。

この日のクインテットは横山裕章(ピアノ)、美央(第一バイオリン)、伊能修(第二バイオリン)、菊地幹代(ビオラ)、古川淑恵(チェロ)というメンバー。

バンマス・横山裕章による全曲リアレンジで臨んだ公演は、素晴らしい「もうひとつの吉澤嘉代子の世界」にいざなってくれたので、その模様をお届けしたい。

ヤマハホールのキャパは333人。2階席もあるが、かなり小さい会場だ。瀟洒な雰囲気がよく、ボルテージは否応なしに上がっていく。

この会場ですごいなと思ったのは、観客を大きな業務用(グランドピアノが運べるほどの)エレベーターで運んでくれたこと。受付が7階なので、一般エレベーターでは時間がかかるのと、楽器店等に訪れるお客さんへの配慮だろう。

さて、まずはセットリストを。

<本編>
1. 鏡
2. ユキカ
3. 月曜日戦争

~お話1~
4. 胃
5. えらばれし子供たちの密話
6. 地獄タクシー

~お話2~

7. 人魚
8. 女優
9. 残ってる
10. がらんどう

~お話3~

11. 泣き虫ジュゴン
12. 綺麗

<アンコール>
1. さらばシベリア鉄道(松本隆/大瀧詠一)
2. 東京絶景
3. ジャイアンみたい(弾き語り。公演ごとに違う曲)

大阪:ミューズ
名古屋:一角獣
東京2日目:ラブラブ(昼)、未成年の主張(夜)

今回は小芝居ではなく、吉澤嘉代子が書いた「お話」を朗読するという趣向。そのためセットリストに「お話」と入れている。この構成(とくにお話2の後)こそが、僕の解釈では後々大きな意味を持つことになる。

公演直前のアナウンスを吉澤嘉代子本人が喋るというちょっとしたサプライズがあった後、すぐさまメンバーと吉澤嘉代子が登場。

先頃発表された「女優姉妹」の「鏡」でスタート。荘厳で魅惑に満ちており、まさに「鏡の国」に引き込まれてしまうほど。この時点でもうすでに観客はこの小さな会場の住人と化していた。

続いての「ユキカ」はピアノのイントロに心が直接打ち鳴らされ、このリズムがそのまま心音になったかのよう。弦も加わった音色に乗る吉澤嘉代子の歌声が、全身に染み入ってくる。この楽隊の編成は大正解という予感が早くも感じられた。

みつあみちゃんは胃が痛い

「お話」は吉澤嘉代子が本を朗読するという形式で行われた。

最初のお話は「みつあみちゃんとその恋人」の掛け合い。みつあみちゃんは胃が悪い。恋人がみつあみをほどいてあげると、その日の会社での恨みつらみなんかが口からついて出てくるのだが、そのことにストレスを感じた恋人も胃を壊していた。

だからみつあみは自分でほどかなきゃ、という落ち。

そこから「胃」が始まる。本人も言っていたけれど「胃」は久しぶり。2日で40曲以上を演奏した「吉澤嘉代子の発表会」でも歌わなかった。どうやら2016年の「絶景ツアー」以来のよう。本当に「胃が痛い」みたいに顔をしかめて歌うものだから、やはり胃の弱い僕はキリキリしちゃう。

そして今回のタクシー運転手は横山裕章。「ヤマハホール経由、地獄行き」ということで「地獄タクシー」を。

「人魚~がらんどう」でひとつの物語?

「お話2」は、人魚伝説には別の意味で書かれたものもあるという趣旨で、人を食い殺す人魚がいるというくだりから「人魚」へ。

この「お話2」から始まる曲構成で、僕はひとつの解釈をした。

「人魚」→「女優」→「残ってる」→「がらんどう」

これは時系列を逆に遡っているのではないかという解釈だ。つまり、「がらんどう」→「残ってる」→「女優」→「人魚」とすることで、ひとつの物語ができあがるのだ。

どういうことかというと、

「がらんどう」は「がらんどうな私を満たしてよ 今日は帰らないと言って」と、大切な人を引き留める歌。

引き留められなかった大切な人はもう帰ってしまった……けれどあなたはまだ「残ってる」。

それでもその人を信じ、身をやつしていかがわしい「女優」に堕ちてしまった私。そんな状況でも思う。あなたにかかった悪い魔法を解いてあげる。私の姿が変わり果ててしまったとしても。

そして私は人を食べて生きる「人魚」へと変わり果ててしまった……。

という物語だ。ただ時系列に並べるのではなく、それを逆にすることで本来あった姿に戻っていくという物語ではないかと、「がらんどう」を聴いた瞬間に解釈し、思わず吉澤嘉代子に対して目を見張ってしまった。

考えすぎかもしれないが、もしそうだとしたら素敵な構成だなと、僕は聴きながら一人感動していた。

泣き虫ジュゴンの見つめる果てに

最後の「お話3」。水族館の狭い水槽で泳ぐジュゴン。その傍らには人魚伝説を記したプレートが置かれている。目の前ではみつあみの女の子が泣いている。ジュゴンは言う。海の中なら大丈夫だよ。そしたら誰にもわかんない、と。

この3つめのお話には、「みつあみ」「人魚」という先の2つのお話で登場した言葉が再び使われている。これもおそらく意図的ではないかなと僕は思った。

「泣き虫ジュゴン」。水中から見たような淡い心象風景がピアノと弦によって描き出され、その心の内を、吉澤嘉代子の力強い声が反響する。

続いて「綺麗」。ジュゴンの見つめる果てには、きらきらの世界が広がっていた。

ここでは「綺麗綺麗」「きらっきらっ ぴかっぴかっ」の部分を皆で歌いましょうと観客にリクエスト。客席を左右にわけてそれぞれ合唱。

冬の空とジャイアン

アンコールは恒例のグッズ紹介があり、12月なので12月の歌を歌いますということで、「さらばシベリア鉄道」のカバーを。

「屋根裏」が「さらばシベリア鉄道」のオマージュであることもあり、完全に自分のものにしていた印象。

ここでMC。

「今夜はふたご座流星群が見られるそうです。どうでもいい情報なんですけど、私ふたご座なのでちょっと嬉しいです。銀座の空に……東京の空に星は見えるかな?」

という話の流れで、「東京絶景」にもっていく。この曲は個人的に涙腺刺激曲なので、今日も視界が……。

そしてオーラス。バンドメンバーが去り、弾き語りに。最後の曲は公演ごとに変えているそうで、この日は「国民的アニメのキャラクターを模した曲です」。

ということで「ジャイアンみたい」。

好きだからいじめちゃうという心理を、これ以上ないほどわかりやすく表現した曲。

「いつでもあなたは真っ赤になっていたね。わたしも真っ赤だったよ」。アニメのキャラは怒って赤くなっていたけれど、この一節だけで意味を反転させられるのはさすがだし、この部分の歌い方にいつもドキッとさせられる。ええ、この日もドキドキでしたよ。

万雷の拍手の中、投げキッスをひとつしながら、吉澤嘉代子退場。

「もうひとつの吉澤嘉代子の世界」

全曲リアレンジということで、いつもとまったく違う曲の入りのため、イントロだけでは何の曲かすぐにはわからない場面が多々あった。だが、それが良かった。

手探りで進み始めると、すぐに形をもった彼女の声に触れることができ、安心感を与えてくれる。旋律は違っていても、核となる彼女の曲は揺るぎない姿を保ったままなのだ。その姿を認めると、クインテットの奏でる音が色づき始め、一曲ごとにさまざまな世界が創り出されていく。

それが全編に渡って繰り広げられるものだから、まるで「パラレルワールド」を体験しているような感覚を抱いた。

これまでのライブ、音源で聴く吉澤嘉代子とは違う世界線を走る「もうひとつの吉澤嘉代子の世界」。

またあの世界に迷い込みたいと思わせられる、本当に素晴らしいライブだった。

彼女のライブに足を運ぶたびに、その毎回ごとが最高のライブになる。年明けの2月から始まる「女優ツアー」がますます楽しみ。

「みつあみクインテットツアー」は12月15日に銀座ヤマハホールの2公演で幕を閉じる。2019年の幕が上がった時、どんな吉澤嘉代子を見せてくれるのか。そんな期待を抱きながら、2018年の残りの時を過ごしたいと思う。

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