「今日の1枚」として時代・洋邦問わずに、おすすめのアルバムを紹介するこのコーナー。
今日の1枚 – ハルカトミユキ『シアノタイプ』
第3回目はハルカトミユキの『シアノタイプ』(2013年)!
2012年結成、インディーズデビュー。本作はメジャー1作目にあたる。メンバーはハルカ(ボーカル、ギター)、ミユキ(キーボード、コーラス)の2人。
お互いコミュニケーションを取るのが苦手だったが、大学で運命的な出会いを果たす。森田童子、銀杏BOYZ、ニルヴァーナが彼女たちを結びつけ、以降2人で活動。
人間の本質を絶望によって暴きながらも、共感、そして希望を引き出す歌詞。ポップでありながらも、ロックの太い芯が通った曲。
このアルバムではバラエティに富んだ曲が並び、「シアノタイプ」=「青写真」というタイトルのとおり、自らの将来にさまざまな可能性が広がっていることを想起させる作品となっている。
さっそく紹介していこう!
カテゴリ: オルタナティブ
1曲目「消しゴム」
静かなスタート。
「僕は僕を消しゴムで消し去りたい」。優しいメロディに包まれた絶望を綴る言葉。しかし最後は「負けたくないんだ」で締めくくられる。
2曲目「マネキン」
うねりの効いたノイジーなイントロから、曲の世界に引き込まれる。モチーフは「人体実験」。
「被験者」と「支配者」の関係。「赤や緑のはらわた」「無数の管を体に刺したままで」等という、刺激的な表現をちりばめ、両者の関係性がやがて曖昧になっていく様を歌い上げる。
3曲目「ドライアイス」
水面に水が落ちたようなキーボードの打鍵から、ギターの湯気が立ち上るイントロ。やがて冷たいけれど火傷するほど熱い「ドライアイス」の中に希望を見いだす。
「ドライアイスのように極限まで凍りついて初めて生まれる熱。焼けつくように熱い命の熱。闇の中の本当の希望」とハルカは語っている。
4曲目「mosaic」
重く激しいイントロから、「正義は勝つとか言っちゃってる」「愛が救うとか言っちゃってる」「他にはなんか言うこと無いの?」などと、挑発的な言葉が次々と繰り出される。
「大事なもんは見えないまんま モザイクかかってる」。そのモザイクを取っ払ったのが、この曲だ。
5曲目「Hate you」
一転してポップ調。MVでもコミカルな動きを披露。
ところが、ここで口ずさまれるのは「君が嫌い」と「その理由」。
後半で唯一「君が好き」へと気持ちが反転する箇所があり、おっと思うのも束の間、「…とか言ってもらえると思うなよ?」。
6曲目「シアノタイプ」
タイトル曲。「青写真」というとおり、どこかはかなげな曲調。
「ずっと先を期待してしまう」「少しだけ未来のこと期待してしまう」。今はまだ青写真の中にいることを気づかせてくれる。
7曲目「7nonsense」
インスト。
耽美で幻想的な調べが、歪んだ時空の中に迷い込んでしまったような錯覚を抱かせる。
8曲目「振り出しに戻る」
スピードに乗ったシンセの音からスタートし、自分ではない誰かに足を引っ張られて「振り出しに戻る」理不尽さが歌われる。
9曲目「伝言ゲーム」
こちらもポップなナンバーだが、歌詞は辛辣だ。僕はこの曲がものすごく好きなのだけれど、MVはないので、歌詞を一部転載しておく。
(1番)みんなが買ってるあの本だけは とりあえず買ったよ
うん、おもしろかったよ とか言って本当はよくわからなかったけど
あの人がおもしろいって言うんだから間違いないだろ
協調性が大事ですから 前ならえして並びましょう
足並み揃えられない人は 廊下に立ってろ
伝言ゲームしてる 間違っても続ける
誰も疑わないで 偉い奴が決まった
(2番)あいつが聴いてるあの曲だけは とりあえず嫌いだ
本当に嫌いだ とか言って一度も聴いたことないけど
あの人がダメだよなって言うんだから間違いないだろ(以下略)
本当の意味、真実を理解せず「あの人が言っていたから間違いないだろ」という、思考停止を強烈に皮肉る。
なぜだろう、僕はこの曲を聴くと涙腺が刺激されてしまうのだ。
10曲目「長い待ち合わせ」
切ないバラード調の曲。結局、待ち人は来ずに終わり、一人で帰ることになる。そんな心情をゆったりと歌い上げる。
11曲目「ナイフ」
こちらも静かな曲。タイトルの印象とは真逆のスローテンポで、それがかえって「ナイフ」の持つ鋭さを際立たせる。
12曲目「Vanilla」
ラスト。フォーク調の出だしから、サビは「狂えない 狂えない 狂ってしまえない どんなに寂しくても」と心の叫びを絞り出す。
絶望感の漂う曲だが、最後に「許してあげたい あの頃の僕たちを」と、ひとしずくの希望を落として、アルバム「シアノタイプ」は終幕する。
あらためて聴いてみると、真摯で硬派、器用でない2人のスタンスが、くっきりと浮き上がってくる「青写真」だと感じた。
皮肉に富み、攻撃的ともいえるストレートな歌詞、そして硬質な音。それがゆえに、人を選ぶアーティストであることは間違いない。
しかし、ひとたび心を掴まれてしまえば、彼女たちと共に未来を描いていきたい。そんな気分になるのである。
今回はハルカトミユキの『シアノタイプ』をお届けしました。
次回をお楽しみに!
カテゴリ: オルタナティブ