「今日の1枚」として時代・洋邦問わずに、おすすめのアルバムを紹介するこのコーナー。
今日の1枚 – 小島麻由美『セシルのブルース』
第6回目は小島麻由美の『セシルのブルース』(1995年)!
これは心底「マジですげえ」と感じた1枚だ。23年前の作品だが、今聴いてもまったく色褪せることがないのにまた驚く。
1995年のデビュー以降、マイペースに活動を続ける小島麻由美の1stアルバム。
たしか発売前にミュージック・マガジンで絶賛されていたのを機に、彼女の存在を知った。そしてアルバムを手に取って聴くやいなや衝撃を受け、すぐに虜となった記憶がある。
それ以来、彼女を追い続けてきたこともあり、「今日の1枚」でとりあげるにふさわしい作品だろう。
それでは『セシルのブルース』を紹介していこう!
1曲目「おしゃべりおしゃべり」。
スキャット満載、小島ワールド全開のオープニング。
このまま2人で…ダンダン シュビドゥバー
夜までおしゃべり…ダンダン シュビドゥバー
とにかくカッコいい滑り出しだ。
2曲目「セシルのブルース」。
メロディと歌声の絡み合いが完璧。
恋人を部屋に招くことが前日の夜に急に決まり、一気に世界が動き出した焦りがよく表されている。
あなたが欲しがったあのレコード
バカだなこんな時
貸しっぱなし
なんて、最高ではないか。
3曲目「スキャット・ブルース」。
歌詞がスキャットオンリーで構成される曲。
なのに、この奥深さは何だろう。
4曲目「恋の極楽特急」。
一転してスピーディーなポップナンバー。クラップ音(手拍子)も効果的に作用している。
オレンジ色した 極楽特急に乗り込んで彼に会いに行くよ
すごいスピードで駅をとばし
あの小さな部屋へ
心がここにない私にね 何言ってもムダなの
100万キロのスピード上げて 彼のもとへ向かうよ
物語を見る側だった彼女が、恋を通じて物語を紡ぐ側に立つ。
そして彼のもとへと全速力で向かう、という心情に思わずエールを送りたくなる。大好きな曲です。
5曲目「先生のお気に入り」。
ちょっとコミカルなイントロで始まるこの曲は、先生にかまわれている生徒を歌ったもの。
先生が気に入っているようでいて、実際には彼女が先生のことを想っているのだなと歌詞の最後でわかる。
6曲目「ディビ・ドゥビ・ダー」。
バイクに奪われてしまった彼の心を、バイクを壊すことで再び自分に振り向かせようとする歌。
バイクは他の女性を暗に示しているのかもしれない。
「大きな犬が 踏み切りでドロンと 死んでた」という部分がそうした想像をさせるのだが、もしそうならこの曲の描く世界は空恐ろしいものへと変化する。
7曲目「蜜蜂」。
5拍子で演奏されるムードのある曲。
巣に群がる蜜蜂たち
金色の 蜜の味
という歌詞も意味深だ。
8曲目「結婚相談所」。
今もライブでよく歌われるナンバー。
イントロの口笛から、一気にその世界観にいざなわれる。ジャズの匂いのする軽快なポップスを艶のあるボイスで歌い上げる、これも小島麻由美の特性だ。
ちょっといい加減な結婚相談所の相談員の様子も、ライトな世界観を表現することに成功している。
9曲目「ろば」。
くぐもったような声と、散りばめられた不協和音が印象的な不思議な曲。
10曲目「皆殺しのブルース」。
インスト。「ゴッドファーザー」を想起させるような曲調はおどろおどろしく、突然幕が閉じる。まさに皆殺しだ。
1stアルバムにして、非常に完成度の高い作品。
そして驚くべきは、このアルバムの収録時間。なんと29分なのだ。30分を切っているとは思えないほど、濃密で奥深い世界を構築している。
未聴の方に、ぜひこの独特な世界観を味わってもらいたい。
今回は小島麻由美『セシルのブルース』を紹介しました。次回もお楽しみに!