2018年1~3月に放映されたオリジナルアニメ『宇宙(そら)よりも遠い場所』(略称「よりもい」)。
Amazonビデオで配信中でしたので、一気に視聴しました!
女子高生たちの繰り広げる熱い友情とストーリー展開に、年齢を超えた共感と充足感、感動を得ることができました。
また2018年12月には、New York Timesが選ぶ2018のベストテレビ番組の国際部門に選出され、その高いクオリティが世界的にも評価されました(記事中の「8. ‘A Place Further Than the Universe ‘」です)。
『宇宙よりも遠い場所』あらすじ
何かを始めたいと思いながら、中々一歩を踏み出すことのできないまま高校2年生になってしまった少女・玉木マリ(たまき・まり)ことキマリは、とあることをきっかけに南極を目指す少女・小淵沢報瀬(こぶちざわ・しらせ)と出会う。
高校生が南極になんて行けるわけがないと言われても、絶対にあきらめようとしない報瀬の姿に心を動かされたキマリは、報瀬と共に南極を目指すことを誓うのだが……。
というのが、序盤のあらすじ。
制作はマッドハウス。『オーバーロード』『電脳コイル』等を手がける制作会社です。
本作は前情報なしで視聴し始めたので、「南極を目指す」という途方もない展開にいきなりガツンとやられてしまいました。
そしてオープニングテーマ「The Girls Are Alright!」はクラムボンのミトが提供しています。クラムボンファンの私にも嬉しい選曲。
また、同じサウンドトラック収録の「ハルカトオク(藤澤慶昌・提供)」は、ここぞという場面で挿入される名曲。私はイントロだけで涙腺が刺激されるようになりました。
「宇宙よりも遠い場所」は、Amazonビデオ、U-NEXT、Dアニメストアにて視聴可能です。やっぱりネタバレは嫌~という方は、本編を視聴してみてくださいね。
それではネタバレOKな方は、ややネタバレレビューにいってみましょう!
※一部、イメージを伝えるために作中画像を引用していますが、すべての権利は制作者に帰属します
『宇宙よりも遠い場所』ややネタバレレビュー
序盤
第1話~4話
タイトル名は元宇宙飛行士の毛利衛さんが「宇宙には数分でたどり着けるが、昭和基地には何日もかかる。宇宙よりも遠いですね」と話したことに由来。
そして本作では、報瀬の母・小淵沢貴子の著作名(南極の写真集)になっている。
そう、報瀬は3年前に南極で行方不明になった貴子の行方を探るため、昭和基地に行こうとしていたのだ。
「何かをしたい」と思いながら、なかなか勇気の出ないキマリ。雨の日に学校をサボって東京に行こうとするが、それすらできずにいる。

そんな時に、100万円の封筒を落とした少女と出会う。それが小淵沢報瀬(こぶちざわ・しらせ)。
行けるはずのない南極へ行こうとしていることで「南極」とあだ名をつけられ、皆から馬鹿にされている報瀬だが、彼女には揺るぎない信念があった。
キマリが拾った100万円を返した後、1話の終盤で報瀬は言う。
言いたい人には言わせておけばいい。今に見てろって熱くなれるから。そっちの方がずっといい。
キマリはそんな彼女を応援したい。何か手伝えることはないかとたずねる。
すると報瀬は笑顔を作り、「じゃあ一緒に行く?」とキマリを誘うのだ。

この瞬間、キマリの人生は変わったと言っていい。
報瀬の大きな想いと、キマリの小さな想い。
ギャップのある二人の想いが、このときに一致した。いやむしろ、報瀬の方はほとんど期待していなかったと思われる。「どうせ来ないだろ」という諦めようなものが感じられたのだ。
しかしキマリは広島で行われる「砕氷艦しらせ」の見学会に行くと決心し、新幹線で報瀬と出会う。心底から嬉しそうな顔をする報瀬。そして広島へと出発する2人。
第2話で高校を中退してコンビニで働く三宅日向(みやけ・ひなた)、第3話でタレントの白石結月(しらいし・ゆづき)が加わり、4人で南極を目指すことになる。
第4話は訓練の話。キマリがコンパスが得意という、意外な才能が発見される。
第5話
序盤の山はキマリの親友である高橋めぐみ(めぐっちゃん)との関係だ。それが第5話。
めぐみは気弱なキマリを世話し、「しょうがないな」と言いながら、頼られている実感を得て満足していた。しかしキマリは報瀬や他の仲間たちと行動をともにするにつれ、徐々に自立していく。
そんなキマリの成長に嫉妬や焦りを感じためぐみは、学校でよからぬ噂を流したりして、キマリに南極行きを断念させようとする。
しかしそれにもめげず(めぐみがそんなことをしているとは気づかず)、キマリは南極出発の日を迎える。
その朝、キマリの前に現れためぐみは、絶交を宣言する。そして告白するのだ。彼女が悪い噂を流してしまったことを。

思えばめぐみは常に南極行きに否定的だったし、冷めた発言を続けていた。それが、この伏線になっていたのだ。
本来、悪役として終わる展開だが、ここでのめぐみの勇気を称えたい。最後の最後ですべてを明かし、そのために「絶交」を宣言する。
でも、それはめぐみからキマリへの絶交ではなく、「めぐみがキマリから絶交されるようなことをしてしまった」という、反転の意味が込められていた。
昨日、キマリに言われてやっと気づいた。くっついて歩いてるのはキマリじゃなくて私なんだって。
キマリに頼られて相談されて呆れて面倒見るようなフリして偉そうな態度とって…。そうしてないと何もなかったんだよ私には!
自分に何もなかったからキマリにも何も持たせたくなかったんだ。駄目なのはキマリじゃない私だ!
ここじゃないところに向かわないといけないのは、私なんだよ!
めぐみは自分の心に気づいた。キマリに頼られることでアイデンティティを保っていた。でも、それではいけないと。
謝って立ち去るめぐみに、キマリは南極行きに誘う。しかし「バカ言うなよ、やっと一歩踏み出そうとしてるんだぞ。お前のいない世界に」と、背中を向けためぐみは一蹴する。
その背にキマリは飛びついて、耳元でこう呟く。

絶交、無効。
と。逆に走り去るキマリ。その様子を見つめるめぐみ。めぐみはほとんど表情を変えていないが、心に大きな決心を秘めていたのだ。それはラストで明らかになる。
そして…「全てが動き出す」。
中盤
第6話~8話
第6話では経由地のシンガポールで日向がパスポートを紛失する騒ぎがあり(結局、報瀬のバッグに入っていた)、第7話では「観測船ペンギン饅頭号」に乗船する。
船で割り当てられた部屋は報瀬の母・貴子が使っていた部屋だ。
その7話では、隊長の藤堂吟(とうどう・ぎん)、副隊長の前川かなえ、そして小淵沢貴子の三人が、民間観測隊の立ち上げから関わってきたこと、貴子が遭難したこと、次の派遣が無期延期となったこと、三年前のメンバーが今回も参加していること等が、藤堂隊長から報瀬に語られる。
第8話は南極への出航。船酔いに苦しめられる4人。
第9話
第9話でついに南極に降り立つ4人。

報瀬は叫ぶ。

ざまぁみろ。ざまぁみろ! ざまぁみろ! ざまぁみろ!
あんたたちが馬鹿にして鼻で笑っても私は信じた!
絶対無理だって裏切られても私は諦めなかった! その結果がこれよ!
報瀬らしい発言に、他の3人、そして隊長以下隊員たちも「ざまぁみろ!」と絶叫する。
観測隊の派遣が危ぶまれる中、批判や中傷もあっただろう。苦労の末に南極へとたどり着いた隊員たちは、そうした意見に対し「ざまぁみろ!」と快哉を叫ぶのだ。その想いは報瀬の想いと一致する。
最初はどうなることかと思わせられたが、この4人のまっすぐさと勢いが、大人である隊員たちの心にも響き、このとき船全体が一体感を持ったように思えた。
終盤
第10話
第10話はタレントの白石結月がメインの話。
子役時代から芸能界で活躍してきた結月は、「友だち」がどういうものなのか、わかっていない。
これまで友だちだと思ってきた子たちは、忙しさのために全く遊べなかったり、結月が芸能人と知って近づいてきた者ばかり。そのため友だちと呼べる人は誰もいなかったのだ。

キマリ)でも友だちであることは確かだよ。私たちみんな。
結月)いつからですか…?
キマリ)いつからって…なんとなく?
日向)ま、そんなもんだ。友だちなんて。
結月)でも私、一度も言われてません。友だちになろうって。
そう言った後、結月はある紙を3人に差し出す。

結月)これ書いてくれませんか? これがあればこの旅が終わって一緒にいない時間の方が増えても大丈夫かなって。
キマリ)わかんないんだよね…わかんないんだもんね…。
共感力の高いキマリは、結月に抱きついて涙する。

しかしその意味も汲み取れない結月。物心ついた頃から身に染みついた感覚は、ずっとその人を縛り付けるものなのかもしれない。
その後、キマリは絶交を宣言されためぐみと、今もメッセージのやりとりをしていると告げる。返事はあまりないけれど、既読がすぐについたりする。

わかるんだよ、どんな顔してるか。変だよね。
私にとって友だちって多分そんな感じ。
全然はっきりしてないんだけどさ、でも多分そんな感じ。
そして、初めて友だちから誕生日を祝われた結月は嬉し泣きをする。

こうした経験を通じ、友だちとはどういうものなのか、結月はなんとなくだが理解し始めるのだ。
第11話
第11話は高校を中退した三宅日向がメインの話。
ビデオ中継で日向の高校時代の友だちという三人が登場するが日向は逃げ、雪に当たり散らしてしまう。異変に気づいたのは報瀬だ。

陸上部に所属していた日向はチームメイト3人からの激励を受け、先輩を差し置いて代表に選ばれる。激怒した先輩に、そのチームメイトたちは「空気読めって言ったんですけど」と裏切る発言をする。それを聞いた日向は退部し、やがて高校も辞めてしまう。
そんな3人が突然近づいてきたことの理由を、日向も察している。
日向は皆に心の内を明かす。
中継で話したいって。友だちが南極に行ったって聞いて自慢なんだって。
あー友だちだったんだーって思ったけどね。
(中略)私がさ、なんで南極来たと思う?
何のしがらみもない人と何にもない所に行きたかったんだよ!
そして再びの中継。

相手の謝罪を受け入れるか迷っている日向を制し、報瀬はその「友だち」に啖呵を切る。少し長いけれど引用する。
悪いけど三宅日向にもう関わらないでくれませんか?
あなたたちは日向が学校辞めて辛くて苦しくて、あなたたちのことを恨んでると思ってるかもしれない。毎日部活のこと思い出して泣いてると思っていたかもしれない。けど、けど…。
(中略)日向はもうとっくに前を向いて、もうとっくに歩き出しているから! 私たちと一緒に踏み出しているから!
私は日向と違って性格悪いからはっきり言う! あなたたちはそのままモヤモヤした気持ちを引きずって生きていきなよ! 人を傷つけて苦しめたよ! そのくらい抱えていきなよ!
それが人を傷つけた代償だよ! 私の友だちを傷つけた代償だよ!
今さら何よ、ざけんなよ!
日向はずっと高校でのことを引きずっていた。だが前を向いて行こう、私たちと一緒に行こうと、報瀬は画面の向こうの「友だち」だけでなく、日向に語りかけているのだ。

報瀬のこの叫びを聞いて、日向の心は救われる。
このとき、友だちの反応は一切描かれていない。怒っただろうか、泣いてしまっただろうか、後悔しただろうか……いろいろな反応が想像できるし、視た者の心のありようが試される場面かもしれない。
結末
第12話
そして第12話。報瀬と母・貴子の話に移る。
観測隊は貴子が消息を絶った場所に行くことになる。ただ、報瀬は現実感がないのか、本当はここに来るために南極行きを決めたはずなのに、あまりに普通すぎる自分の感情に困惑している様子。
皆に心境を吐露する報瀬。
でも、そこに着いたらもう先はない。終わりなの。もし行って何も変わらなかったら、私はきっと一生今の気持ちのままなんだって…。
このあたりの心情はいざ当事者になったとき、同じような心の動きをするのではないかと思わせる、報瀬の偽らざる気持ちを表している。
しかし母の親友とも呼べる藤堂隊長との会話を経て、報瀬の気持ちは変わっていく。
報瀬は3年間毎日、母宛にメールを送っていた。そして報瀬はこんなメールを母に送る。
Dearお母さん、友達ができました。ずっと1人でいいって思っていた私に友達ができました。
ちょっぴり変で、ちょっぴり面倒で、ちょっぴり駄目な人たちだけど、一緒に南極まで旅してくれる友達が。
喧嘩したり泣いたり困ったりして、それでもお母さんがいたこの場所にこんな遠くまで一緒に旅してくれました。
私はみんなが一緒だったからここまで来れました。
一人で行動してきた報瀬に、かけがえのない友だちができたことを、自らにも言い聞かせるような文面。当初の報瀬からは考えられないような柔らかい印象だ。
そして貴子が行方不明になった場所にたどり着く。そこに貴子と報瀬の写真が貼られたパソコンが残されていた。

起動すると3年分のメールを受信し始め、そのすべてが未読フォルダに収められていく。



ここに来ても心の変化がほとんど起きなかった報瀬だが、このメールを見て一気に心が決壊する。それを知って号泣するキマリたち3人。そして一緒に泣く私。
母はもういないという現実を否応なく見せつけられる描写は非情だが、報瀬の感情を動かすにはこれしかない。
そしてこの瞬間、止まっていた報瀬の時が、止まっていた報瀬の感情が動き出す。
第13話(最終話)
最終話は帰還。
報瀬はばっさりと髪を切る。

帰還スピーチで、報瀬は以下のような発言をする。
そして、わかった気がしました。母がここを愛したのはこの景色とこの空とこの風と同じくらいに、仲間と一緒に乗り越えられるその時間を愛したのだと。
何にも邪魔されず、仲間だけで乗り越えていくしかないこの空間が大好きだったんだと。
私はここが大好きです。越冬、頑張ってください。必ずまた来ます。ここに。
ここでも「仲間」を強調する報瀬。このスピーチに、藤堂隊長や隊員たちも涙する。

本当にいい笑顔の4人。出会った頃の4人からは想像もできないほどの表情だ。
帰還する船の上で、オーロラを体験する4人。そのとき、パソコンに未送信メールを発見した藤堂隊長が、絶妙のタイミングでメールを送る。

貴子は行方不明になる直前、報瀬にメールを送ろうとしていた。1,000通を超える報瀬のメールは、この一通の返信で報われることになる。
そして帰国した空港で、キマリが皆に言う。
キマリ)「ねぇ、ここで別れよ」
「え…」
「キマリ…」
「もう一緒にいられないってことですか?」キマリ)「逆だよ。一緒にいられなくても一緒にいられる。だってもう私たちは私たちだもん」
物理的に一緒にいなくても、心が、気持ちが繋がっている。それが友だちだと、キマリは言いたいのだろう。
それは皆にも伝わり、それぞれの生活へと戻っていく。
そしてラストのラスト。
キマリは南極から帰ったことをめぐみに知らせるが、思わぬ返事が返ってくる。

今、北極にいると。
キマリたちと同じく、めぐみも自ら行動し、キマリに負けないように、いや対等であろうとして北極を選んだのだろう。
「なんでーー!」というキマリの叫びで物語は幕を閉じる。
最後に誰もが救われる展開に胸が熱くなる。
全13話。短い1クールの中に、これだけ濃密で感動を喚起する物語を詰め込んだ制作スタッフには感嘆するばかり。
友情、青春、成長、親子、目指すべき目標……定番的な要素を詰め込みながらも、見事に新しいストーリーへと昇華させた素晴らしい作品でした。
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また、U-NEXT