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『闇に香る嘘/下村敦史』ややネタバレ読書レビュー、感想

「闇に香る嘘」あらすじ

2014年の第60回江戸川乱歩賞受賞作。

孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された村上和久は、兄の竜彦を頼る。

しかし、移植どころか検査さえ拒絶する竜彦に疑念を抱く。目の前の男は実の兄なのか。

27年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。

驚愕の真相が待ち受ける江戸川乱歩賞受賞作。

まず、主人公が全盲という点がポイント。ストーリー展開や描写などのハードルが上がるが、こうした作者のチャレンジ精神を買いたい。



ややネタバレ感想

全盲であるがゆえに、視点は主人公の一視点に固定される。それも心理描写、聴覚や触覚しか扱えないという、「闇」の中で物語は進行していく。

作者はこの制限を逆手に取って、作中にいくつかの謎をちりばめる。

兄に対する疑念、突然送られてくる点字による俳句、本当の兄と名乗る中国人……。

それらの伏線を、後半に向けて見事に回収していき、ラストで自分自分の存在が「嘘」とわかり、かつ周辺人物たちの優しい「嘘」だとわかる瞬間は、カタルシス大。

全盲者、中国残留孤児、腎臓移植……という重めの題材を扱う社会派小説としても読ませる力がある。

ただ、70歳近い主人公を中心に、登場人物の年齢が高いので、全体的に落ち着いた、悪く言えば地味な印象は拭えない。また、全盲であるがゆえに読者と距離感が出てしまい、作品への没入や共感が薄まる可能性もある。

そしてたびたび「無理があるな~」という点も。

いくら全盲でも、他人が勝手に自宅で生活しているのに気づかないということはあるのだろうか。

あまりにも使い古されている双子のトリックが、決め手となる部分に使われているのも気になる。

「ヴァン・ダインの二十則」「ノックスの十戒」でも、双子のトリックは陳腐、あらかじめ読者に伝えておく、等とされている。この二つが発表されたのは1928年だ。

途中で、「実の兄だ」とある人物が名乗り出ているので、もしかしたらギリギリセーフなのかもしれないが、「双子」と知れた際のがっかり感は否めない。

いくつか気になる箇所はあるものの、かたい社会派を好む読者には好意をもって受け入れられそうだ。

江戸川乱歩賞を語るにあたって、読んでおくべき作品であることに変わりはないだろう。

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