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『少女は夜を綴らない/逸木 裕』ややネタバレ読書レビュー、感想

『少女は夜を綴らない』あらすじ

第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞した作者の2作目。

“人を傷つけてしまうかもしれない”という強迫観念に囚われている、

中学3年生の山根理子。彼女は小学6年生のときに同級生の加奈子を目の前で“死なせてしまった”ことを、トラウマとして抱えていた。

“身近な人間の殺害計画”を“夜の日記”と名付けたノートに綴ることで心を落ち着け、どうにか学校生活を送っていた理子の前に、ある日、加奈子の弟・悠人が現れる。

というのが序盤のあらすじ。

前情報なしで読み始めたので、あらすじは後で確認した。結構な部分をネタバレしているような気がしたので、これでも後半をカットしている。

それでは、ややネタバレレビューにいってみよう!



『少女は夜を綴らない』ややネタバレ感想

瀬戸加奈子というエキセントリックな少女が魅力的に描かれるが、しかし彼女は早々に自宅マンションからの転落事故で物語から退場する。

その現場に居合わせた理子は、誰かを傷つけてしまうかもしれないという加害障害を煩ってしまう。そのため、暴露療法という手法を自分で調べ、「夜の日記」に様々な殺人計画を綴っていく。

転落事故なのに、なぜ加害障害なのか。

それは、理子が加奈子に毒を盛り、その毒のせいで死んだ(毒が効いたためにバランスを崩してマンションから転落した)と信じているからだ。

なぜ毒を盛ったのかというと、加奈子が「毒を給食に混ぜる」と言い出したからだ。止めるためには、逆に加奈子に毒を飲ませるしかないと判断した理子は、ジュースに毒を混ぜたのだ。

そして、その様子を目撃していた加奈子の弟・悠人は、理子を脅して、虐待を繰り返す父・龍馬を殺して欲しいと持ちかける。

一方、ホームレス殺人事件が起き、その犯人が兄(別の中学校の教師)ではないかと疑う理子。理子の兄を殺す代わりに父を殺して欲しいとまで言い出す悠人。

殺人計画を立てる理子は、そこに自分の存在意義を見いだす。

そしてその計画を大真面目に評し、会話として成立させていく悠人に惹かれ始める。

母親はいわゆる「毒親」ふうで、理子は幼い頃からないがしろにされてきた。それが、こうして悠人から認められることで、理子は計画立案にのめり込んでいく。

人は縋るものが時には必要だが、それが「殺人計画」であったというところに、理子の悲しさが垣間見える。

龍馬はまさにクズ親として描かれており、殺されるに値する人物に思える。そしてある日、2人はついに犯行を決行する。

そして結末へ…

ところが、理子の計画はいきなり頓挫してしまう。殺人計画は失敗したが、理子は「あること」に気づく。

加奈子は毒など所持していなかった。あれは理子に毒だと思わせてジュースを飲ませるためであって、実際には加奈子は自殺したのだ、と。

龍馬に酷い目に遭わされていたのは悠人だけではない。加奈子もそうだったし、一度龍馬の殺害に失敗した加奈子は自ら死ぬことを選んだ。

しかし自殺は「負けを認めることになる」から、事故を装ったのだと。なぜなら「負けず嫌い」だから。

個人的にはちょっと拍子抜けした結末だった。さらに、加奈子の死に方の選択が、腑に落ちないと感じた。

加奈子は事故を装うことなどせず、自殺することでも龍馬の心に消えない烙印を押すことができただろう。

そして何よりも、事故偽装のために理子を後々まで苦しめることになることを知っていたはずだが、それを選択してしまったことが、加奈子にも向かうはずの共感を奪う。

友人のその後の人生を犠牲にする死に方を選んだ加奈子に同情はできないし、(作者の意図とは違うかもしれないが)なんとなく美談のようにまとめられるのも納得しがたい。

また、理子の兄は殺人者ではなく「痴漢」だった。兄は変わり者風に描かれていたが、なんだかはっきりしない立ち位置。

酒ばかり飲んで、よく自宅に居て、教師という仕事をしているとは微塵も感じられなかった。実は違う仕事をしていたとかあるのかと思ったら、結局教師だったし、しかも中学生に対して痴漢をするために教師になったとあり、余計に半端な印象を持った。

総評

ラストでタイトルはしっかり回収されており、そこはうまくまとめた印象。

デビュー作に比べると、少々物足りない出来だった。

今回はどうしても狭い世界での物語になってしまう設定なので、もっと広い世界で勝負した方が作者の良さが引き出されるように思う

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