「屍人荘の殺人」あらすじ
2017年の第27回鮎川哲也賞受賞作。
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。
合宿一日目の夜、映研のメンバーたちは肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。
緊張と混乱の一夜が明け――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……!!
究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?!
奇想と本格ミステリが見事に融合する第27回鮎川哲也賞受賞作!
というのが序盤のあらすじ。タイトル「屍人荘の殺人」の読み方は「しじんそうのさつじん」。
- このミステリーがすごい2018年版(宝島社)
- 週刊文春2017年ミステリーベスト10(文藝春秋)
- 2018本格ミステリベスト10(原書房)
- 第18回本格ミステリ大賞(本格ミステリ作家クラブ)
で1位を獲得して4冠を達成した(鮎川賞も入れると5冠)、おそるべき作品。
大学の映画研究会、ミステリ研究会の主人公と探偵役の切れ者、そして美しいヒロイン。お膳立てだけ見ると、新しさは感じない。むしろ典型的な登場人物設定といえる。
しかしこの作品が評価されたのは、とくに「状況設定」の部分だ。この作品はタイトルそのものが、その設定のネタバレを含んでいる。
なので、さっそくややネタバレレビューに移ろう。
ややネタバレ感想
タイトルの「屍人」は「しかばねの人」。よってここから、屍人=ゾンビを思い浮かべる人は多いはず。
そう、この物語が作り出したクローズドサークルは、「ゾンビに囲まれた建物」なのだ!
とは言え、ゾンビが登場する作品は小説のみならず、映画、漫画、ゲームにも多い。だから、正直なところその部分がスポットを浴びていることに、「これが新しいのか?」と感じてしまった。「ゾンビを使ってクローズドサークルを作りだした」という設定が新しいのだと思うけれど……。
文体はとても読みやすい。柔らかい、整った文章は、すらすらと読める。そのため、物語世界に入っていきやすい。
しかしその平易な文体のためか、キャラクターの軽さが気になる。とくに主人公、序盤の探偵、ヒロイン。読んでいて恥ずかしくなるようなノリや台詞がたびたび現れ、そのたびに興が冷める。
また、ヒロインが主人公に惹かれていく理由がはっきりしない(ワトソン役として必要としているのはわかるが)。主人公の魅力がいまいち読者に伝わっていないと感じた。
そして、ゾンビがすぐそこまで迫っている、さらに殺人まで起きているのに、登場人物たちが皆どこか悠長で冷静なため、緊迫感や緊張感というものがあまり感じられなかった。
そもそもゾンビの存在理由に対して納得のいく説得力が最後まで見えてこなかった。
とある組織がゾンビ化させるウイルスを使ったのだが、「この組織って何? ゾンビにするウイルスって何なの??」という根本的な疑問は最後まで拭えなかった。この作品でそれを言い出したら元も子もないのだけれども、そういう部分がとても気になる性質でして……。
このあたりが、新しいクローズドサークルと言われてもピンとこなかった原因かもしれない。
現実世界ではありえない、作者の作り出した架空のゾンビという設定だけに、もっと納得感が欲しかった。
犯人の動機はありがちというか、実際に人を殺してまで果たすほどのことなのだろうか。尊敬する先輩の復讐をするために「殺したいと思う」のは自由だ。しかし自らも高いリスクを負う殺人を決行し、それが明らかにされると自決する。
このあたりの犯人の処理の仕方も単純でイマイチすっきりしなかった。
総評
いろいろと気になる点ばかり挙げてしまったけれど、カードキー、エレベーターのトリックは「なるほど!」と思わせるものがあった。
文体やストーリー構成等、随所に光る部分があり、面白さを感じることはできた。新人作品でありながら、最後まで一気読みできたのも事実である。
ただ読者によって、合う合わないはあると思う。少なくとも僕はあまり良い読者ではなかったようだ。
しかし力のある作者だと思うので、次作以降にどんな作品を見せてくれるか楽しみではある。