「QJKJQ」あらすじ
2016年の第62回江戸川乱歩賞受賞作。
猟奇殺人鬼一家の長女として育った、17歳の亜李亜。
一家は秘密を共有しながらひっそりと暮らしていたが、ある日、兄の惨殺死体を発見してしまう。直後に母も姿を消し、亜李亜は父と取り残される。
何が起こったのか探るうちに、亜李亜は自身の周りに違和感を覚え始め―。
というのが、序盤のあらすじ。
江戸川乱歩賞としては思い切った内容の作品。作者は2004年の群像新人文学大賞の優秀作受賞者。
さすがの技巧が冴え、物語をぐいぐい引っ張っていく。さっそくネタバレ感想にいってみたい。
ややネタバレ感想
「猟奇殺人鬼の一家」という設定が、新しい乱歩賞の印象を抱かせる。
そして兄の死と母の失踪の謎。いったいどういう展開が繰り広げられて、どう解決に導くのか。期待が膨らんでいく。
プロ作家だけあって、文章は流れるように綴られていく。純文学の受賞者だが、エンターテインメントを意識しているのか、読みにくいということはなく、作品世界に没入できる筆力。
しかし、そもそもの「『猟奇殺人鬼の一家』なんて、ありえるのだろうか」という設定が、読み進めるうちに「なんだ、やっぱりありえなかったじゃないか!」というマイナス感情につながる危険性を孕んでもいる。
この作品に否定的なイメージを持った読者は、この「妄想世界」というオチが許容できなかったという理由が大きいはず。
幻想小説的な作品になっているため、ミステリーを期待すると肩すかしを食うかもしれない。逆に、幻想小説が好きな読者であればすんなり受け入れられそう。
アンバランスな世界観
主人公はいろいろと行動を起こすのだが、湊かなえが「結局、主人公が人殺しでない世界で行ったのは、同級生をこらしめたのと、事件を解くために家の半径数キロ内をうろうろしただけなのかな」と選評で述べているように、世界観の大きさに比べて現実の行動範囲は極めて小さい。
それでいて、物語終盤には警察ですら手の出せない国家権力が登場するというアンバランス感、悪く言えば究極の後出しといった設定が、読者を置いてけぼりにするおそれは、ここにもひそんでいる。
細かい作り込みや納得感、伏線の妙ではなく、物語全体を覆う雰囲気や、「何でもあり」なオチを受け入れられる読者であれば、むしろ好感を抱くかもしれない。
しかし辻村深月も選評で述べているように、あくまで乱歩賞として新しいのであって、たとえばメフィスト賞だったら、「既視感あり」と評価された可能性だってある。
扱いがなかなか難しい作品。個人的には納得のいかない部分が多かったものの、雰囲気を楽しむことはできた。
乱歩賞を語るのであれば、この作品は読んでおくことを薦めておきたい。