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『北の夕鶴2/3の殺人/島田荘司』ややネタバレ読書レビュー、感想

五年ぶりに、別れた妻・通子(みちこ)からかかってきた電話は、ただならぬ気配に満ちていた。警視庁捜査一課の吉敷竹史(よしき たけし)は、通子を追って上野駅 へ。

発車直後の「ゆうづる九号」に彼女の姿を見つけたが…。

翌日、列車内で通子と思われる女の死体が発見された!青森、盛岡、雪の釧路 を舞台に、意表をつく壮大なトリックとサスペンス。本格推理の傑作!

というのが冒頭のあらすじ。

吉敷刑事シリーズの3作目。

読み終えたときは「マジかよ……」と、島田荘司ならではの、その壮大すぎるトリックに唖然としてしまいました。

さっそくややネタバレレビューに移りましょう!

※トリックの説明がありますので、ご注意ください



『北の夕鶴2/3の殺人』ややネタバレ感想

1988年の作品なので、このレビューを書いているちょうど30年前の時代。

もちろん携帯はないし、パソコンなんかもない。序盤は寝台特急「ゆうづる」の描写もある。それでも読んでいて古くささというものは、あまり感じませんでした。

冒頭、意味深な電話をかけてくる通子に若干のずるさが垣間見えますが、この電話が物語の起動スイッチなので致し方ないですね~。

そして寝台特急内の密室殺人事件(殺されたのが通子と思わせておいて、そうではない)の解決に乗り出すかと思われますが、舞台は北海道のマンションでの密室殺人事件へと移っていく。

さらにこのマンションでは鎧武者の亡霊が出る、なんていう噂もあり……。

このあたりの場面転換、複数舞台や奇妙な設定を用意する展開はさすが。こんなに盛って大丈夫? という心配までしちゃいます。

そして通子が犯人扱いされて警察に追われることに。

吉敷は通子がそんなことをするはずがないと信じているから、無実を証明するために孤軍奮闘します。

それだけならよくある展開なんですが、島田荘司は吉敷を過酷な状況に追い込んでいきます。

暴行を受けてまともに歩けないほどの大けがをして、かつ発熱し、意識朦朧状態のまま、吉敷は執念で事件を追うのです。

この描写がとにかくすごくて、吉敷死んじゃうんじゃないかと思わせるほどに痛々しいです。

しかもさらに交通事故を起こし、コンディションは最悪中の最悪に。

ここまでされると、いやでも吉敷に感情移入せざるをえません。「そんなに無理しないでよ!」と。しかし通子に逮捕状が出されるという時間的制約があるので、吉敷は休んでなどいられないのです。

そんなこんなで通子の疑いは晴れるのですが、ラストでマンションの構造を利用した壮大かつダイナミックなトリックの種明かしが炸裂。

驚愕の壮大トリック

マンション室内にあった遺体は、隣のマンションから運ばれたものでした。そのせいで密室殺人ができあがっていたのですが、その仕掛けはあまりにも想像の範疇を超えるものでした。

それは……、

ロープを使ってマンションとマンションの間に超巨大なブランコを作り、遺体をマンション間で移動させたのです!

しかも遺体が傷つくといけないので、鎧武者の甲冑に遺体を押し込めて。

さらに、その鎧武者が空中移動中に、たまたま写真におさめられて心霊写真のようになっていて、鎧武者亡霊説につながるという落ちもつく。

現実には不可能と思われるこのトリックも、島田荘司の力業によって、「できるかもしれない……」という錯覚すら抱かされます。

また、主人公がこれほどまでにボロボロの状態で物語の多くを過ごす作品も、なかなかお目にかかれません。

ふだん、細部が気になって突っ込みとか入れてしまう僕ですが、この作品ではある種の感動すら覚えました!

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