『仮面病棟』あらすじ
療養型病院にピエロの仮面をかぶった強盗犯が籠城し、自らが撃った女の治療を要求した。
先輩医師の代わりに当直バイトを務める外科医・速水秀悟は、事件に巻き込まれる。
秀悟は女を治療し、脱出を試みるうち、病院に隠された秘密を知る――。
そして「彼女だけは救いたい……」と心に誓う。閉ざされた病院でくり広げられる究極の心理戦。迎える衝撃の結末とは。
というのが基本的なあらすじ。2014年発表の作品だ。
早速、ややネタバレレビューにいってみよう! ※「やや」と言いつつ結構なネタバレをしていますので、未読の方はご注意ください
『仮面病棟』ややネタバレ感想
事件は冒頭すぐに起きる。
なかなか読ませるが、かなり早い段階で、ピエロに撃たれて拉致されてきた川崎愛美の存在が不自然だと気づく。
これはもしや自作自演では……という言葉が頭をよぎったのも、序盤だった。
それはなぜだろうと考えてみると、
- 撃たれたのに愛美の傷はたいしたことがない
- このような状況下でも愛美は案外冷静
- 初対面の主人公をなぜか下の名で呼ぶ(明らかに気を引こうとしている)
といったところだろうか。
ピエロに60人以上もの患者を人質に取られたという状況。そして院長と看護師2名がある秘密を隠している、という謎が物語を牽引していく。
しかし、これまた早々に手術室に手術台が2台あると判明した時点で、ある程度の予測が立てられる。しかも最新鋭の機器が備え付けられているとなれば、「移植」しかないと推測できる。
院長たちが必死に隠す秘密。そしてピエロが探ろうとしている秘密。そうした「秘密」の扱いから、この移植は「違法」であるとわかる。
ピエロと愛美の共犯関係についても同様だ。愛美が犯人ということは、事件を起こしたピエロは彼女に従っているのではないかと見当がつく。
中盤以降の展開が見抜けてしまう
そしてラスト近くで警察に包囲され、ピエロと院長、看護師は殺害され、主人公の速水医師だけが生き残る。愛美は完全包囲状態から逃げ切るのだが、トリックは「もともと入院患者だったから気づかれなかった」というもの。
この病院の特性として療養型であり、身元不明の人間たちが患者となっていて、だからこそ腎臓移植が秘密裏に行われていた。しかしその前提となる設定に対して、若くて美人な愛美の存在が明らかに浮いているし、無理がある。
また、厚めの化粧をしていたとはいえ入院患者であるし、院長はともかく看護師2人ともが気づかないということがあるのだろうか。顔つきはごまかせても、声は変わらないだろう。やはりここでも無理がある。
それに、60人以上が人質ということだが、結局警察が突入するまで誰一人として騒ぐこともなく、いくら療養型といってもそれはないんじゃないかと思った。ほぼ動けないような人々だから……というのなら、患者である愛美の存在は何なのだろうということになって、ここも腑に落ちない点だ。
以上のことから、中盤くらいからは読書が作業といった感じになってしまい、終盤の驚きも半減というかほとんどない状態となってしまった。
総評
ただタイトルは「ピエロの存在」が「仮面」を表しているというだけでなく、ラストで愛美の正体こそが「仮面」だとわかり、うまく回収している。
情報や手がかりを適切に配置して、適切な順番で明らかにしていたら、もしかしたら数段面白くなっていたかもしれない。そうした可能性を感じさせる作品だった。
文章自体は読みやすく、詰まることなく一気に読了できた。
現在多くの作品を生み出している作者。別の作品も読んでみたいと思わせる力量はあると感じた。