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『かがみの孤城/辻村深月』ややネタバレ読書レビュー、感想

『かがみの孤城』あらすじ

2018年の本屋大賞受賞作。

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。

輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた―― なぜこの7人が、なぜこの場所に。

すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

というのが、冒頭のあらすじ。

だが、あらすじは読まず、前情報なしで読み進めた。そのため、いきなりのファンタジー展開に面食らったというのは、正直に告白しておこう。

それを受けて、ややネタバレレビューにいってみよう!※「やや」と書いていますが、結構な部分をネタバレしていますのでご注意ください



『かがみの孤城』ややネタバレレビュー、感想

主人公の中学一年生・安西こころの視点で、基本的には進行していく。

最初は現実世界の「いじめ」を扱うストーリーかと思いきや、早い段階で自宅の鏡が光り始め、オオカミの面をかぶった少女に城へと誘われる。

ここで頭を「ファンタジーモード」に切り替えた。作者の設定によっては、現実世界を扱う物語よりも「ご都合主義」に流れやすい傾向があるので、そこは加味して読み進める必要があるためだ。

城に集められたのは7人の中学生。

感心したのは、これだけいっぺんにキャラクターが登場したのにもかかわらず、それぞれの人物がわかりやすく描かれているので、誰がどんな名前で、どんな性格なのか、混乱することなく読むことができた。逆に言えばステレオタイプということになるのだろうが、一気にこの人数を扱うのならむしろ効果的だろう。

各キャラクターには不登校となった経緯がある。こころを中心に多くは「いじめ」が原因であり、このあたりの描写や心理的な動きは、なかなかリアル。

そして、この城のナビゲーターとなる「オオカミさま」は集った皆に、城に集められた理由を話す。そのときに、

  • 3月30日までに「願いを叶える鍵」を見つけ出す
  • 鍵を見つけ出し、願いを叶えたら皆の記憶は消える
  • 鍵を見つけ出せない場合は、記憶は残ったまま

という条件を提示する。

ところが、この「鍵探し」はほとんど機能しないままストーリーが進行していく。メンバー全員が城での生活を続けることを望み、日々が流れていくからだ。

この条件を聞いた時点で、「鍵探しのための冒険」や「鍵探しにおける人間模様」のような物語を期待すると、肩すかしを食らうことになる。

だが、城での生活が彼らにとって魅力的で、現実から逃れる救いの場になっていることが、次第にわかっていく。僕自身もあの場に連れていかれたら、同じように時を過ごしていたかもしれないと思わせるほどに。時折、個別に鍵を探していたという描写はあるが、それが意味を持つのは終盤になってからだ。

こころの現実での生活、城での生活、城での人間関係、といった描写に多くが割かれているため、多少中だるみ感が出てしまっている。

しかし、その中だるみ感が顔を出すと、決まってフリースクールの喜多嶋先生が登場し、ストーリーにアクセントを与えている。そしてこの喜多嶋先生が、やがてキーとなる予感を感じさせるのだ。

先の読める展開

実は早い段階で、この7人は「別の時代から来ているのでは?」と予測することができてしまった。それは7人皆が通う「雪科第五中学」の学年のクラス数が違うという話題が出た時だ。

フウカが記憶違いしていたということにされているのだが、この伏線はあからさますぎて、ちょっと失敗だったのではと、僕は思っている。

この部分を除けば、マサムネの推理した「パラレルワールド説」で引っ張っていくことのできる伏線が張られていたと感じたので、このクラス数の伏線が本当に惜しまれる。

だから、「実は別の時代から集められていました」と明かされた時の衝撃は、まったくといっていいほどなかった。

そして喜多嶋先生は終始名字しか表記されておらず、この7人のうちの誰かではないかというのも途中でなんとなく読めてしまう。

予想どおりアキだったわけだが、これもアキだったとわかるよりも前の段階で、そうなのだろうという当たりをつけることができてしまった。

また、随所にご都合主義的な面が見られるのも、当初危惧したとおりだった。

ところが、である。

成功の理由と総評

これだけ予想が当たり、先が読め、一部ご都合主義的な物語であるにもかかわらず、僕は読んでいて心を動かされた。端的に言えば「感動した」のである。

喜多嶋先生がなぜ、こころや他の子たちに、あれだけ優しくしていたのか。会って間もないのに、あれだけ理解していたのか。あれだけ尽くしてくれたのか。

それがアキであることに意味があり、「あの」アキだからこそ、心に衝動を感じたのだ。

皆の「願い」は身勝手な行動をしてしまったアキを救い出すことに使われてしまったため、当初の約束どおり記憶はなくなっている。それでもフリースクールの先生となることが運命づけられていたかのように、アキはその道を選ぶ。

主人公はこころだが、僕には「アキの物語」のように思えた。

もちろんこころ、フウカ、リオン、マサムネ、スバル、ウレシノ、それぞれが物語を持っていて、それぞれが救われていく。

こころと東条さんの話も良いし、リオンとオオカミ様の正体との関係(3月31日の意味も)も良い、スバルがマサムネに「ゲームを作る人になる」と宣言するシーン、ウレシノとフウカのちょっとした恋も良かった。

でも、やはりアキの存在が芯となっていると感じた。

アキがこれから人生をかけて生徒たちを救い続け、その過程でこころたちと出会い(ラストシーンはこころと会うシーンだ)、やがてその生を全うするのだと思うと、胸が熱くなる。

辻村深月さんの新作が待ち遠しい。

この「フィクションのるつぼ」というブログの「辻村深月の単行本・文庫の新刊・新作最新情報【新刊予定も】」の記事で新刊情報を提供しているようなので、随時チェックしてみようと思う。

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