小説レビュー

『永遠についての証明/岩井圭也』ややネタバレ読書レビュー、感想

『永遠についての証明』あらすじ

親友の遺したノートには未解決問題の証明が――。数学の天才と青春の苦悩。

特別推薦生として協和大学の数学科にやってきた瞭司と熊沢、そして佐那。

眩いばかりの数学的才能を持つ瞭司に惹きつけられるように三人は結びつき、共同研究で画期的な成果を上げる。

しかし瞭司の過剰な才能は周囲の人間を巻き込み、関係性を修復不可能なほどに引き裂いてしまう。

出会いから17年後、失意のなかで死んだ瞭司の研究ノートを手にした熊沢は、そこに未解決問題「コラッツ予想」の証明と思われる記述を発見する。

贖罪の気持ちを抱える熊沢は、ノートに挑むことで再び瞭司と向き合うことを決意するが――。

というのが基本的なあらすじ。第9回野性時代フロンティア文学賞受賞作、2018年発表の作品だ。

早速、ややネタバレレビューにいってみよう! ※「やや」と言いつつ結構なネタバレをしていますので、未読の方はご注意ください



『永遠についての証明』ややネタバレ感想

まず、「数学」ということで読むのをためらう方もいるだろう。

しかし、この小説に数学の知識は不要だ。なぜなら、高校時代に赤点を獲得した僕でも楽しく読むことができたからだ! 

まあ、大人になって多少は人生的な知識、経験を得てきたこともあるのかもしれない。それを差し引いても、「数学」は本書を読み進めるための障壁にはならない。

物語は、数学の天才である三ツ矢瞭司、そしてその親友である熊沢との視点で展開していく。過去パートが瞭司、現在パートは熊沢だ。

瞭司は物語早々で死去していることがわかるので、自ずから過去パートは瞭司となる。

ストーリー全体の流れは、天才である瞭司の輝かしい過去、そしてその瞭司の人生が暗転してき、やがてアルコール依存症となって死に至る過程を描く。そして、瞭司の残したノートを手がかりに、熊沢が瞭司の代わりに世紀の「証明」に挑戦するというものだ。

パターン的には目新しいものではないが、そこに「数学」「ノート」「証明に挑む」というエッセンスを加えることで、興味を持続させることに成功している。

そして何よりも文章が読みやすい。だけでなく、引き込まれる。平易だが美しい表現でストレスを感じさせないため、リズムが心地よく、物語世界に没頭しやすい。

少なくとも僕は気持ちのいい読書体験ができた。

また、瞭司と熊沢の視点があるため、どちらに共感を覚えるかで、ラストの印象は変わってくるはずだ。

瞭司の堕ちていく描写が凄まじいため、多くは瞭司に共感を覚えるかもしれない。

そこが、ラストの締め方の落とし穴になる可能性がある。

救われたのは誰か?

最後、熊沢は証明に成功する(完全ではないが)のだが、ここに至るまでの熊沢の行為、思考を知っている読者は、この時点で心理的反発、嫌悪感を覚えるかもしれない。

なぜなら、熊沢は瞭司を見捨て(瞭司に厳しく当たった後任教授の平賀に師事し)、瞭司が死んだ時に流した涙は瞭司のためというより自責に過ぎず、証明に成功して賞賛を浴び、関係が怪しくなっていた妻からは「結婚して良かった」と言われて事なきを得る。

ラストの描写では一見、瞭司が救われたように感じるが、救われたのは熊沢ただ一人で、瞭司は何の報いも得られていない。ただ失意のうちに死んだ。それだけなのだ。

作者の意図は違うのかもしれない。瞭司も救われたのだと言いたいかもしれない。

けれど、少なくとも僕にはそうは感じられなかった。なぜだろうと考えたところ、熊沢にも何らかの代償が必要だったのではないかという点に行き着いた。

佐那を失ったではないか、という反論もあるだろうが、これだって熊沢自身が原因のひとつであることは間違いないし、これは当然の帰結だろう。

そしてラストでは佐那の紹介(仲介したのは先輩の田中だが)で、瞭司の代わりのような生徒が入学してくる。熊沢は彼を大切に扱っているようだが、これもある意味、瞭司にとっては残酷な展開だ。

熊沢にも瞭司の死に匹敵するような災難が降りかかり、それと平行して(または乗り越えて)成功を収めたのなら、読後感は異なっていたかもしれない。

職を失うとか、離婚するとか、後遺症が残るような大怪我をするとか、そのような境遇になりながらも瞭司の遺したノートを証明するという気迫、執念があれば、熊沢の瞭司の死に対する本気さが伝わってきたと思う。

一方で、熊沢に共感した読者でれば、瞭司の不器用さやコミュニケーション能力の欠如に苛立ちを覚えたかもしれない。そうした視点で見ると、瞭司は瞭司で自業自得の末路を辿ったとも言える。

でも、僕個人としては熊沢の業をより強く表現するために、彼の境遇を瞭司と対等にしてほしいなと感じたのは確かだ。

総評

と、いろいろと書いてきたが、最後の締め方の部分だけが個人的には気になっただけで、総じてレベルの高い作品だったように思う。

終盤で熊沢が見た光景は間違いなく瞭司が見たそれであり、さらに瞭司の世界を読者に体験させている。実際に目の前に煌めきが現れ、数の世界へといざなわれたような錯覚すら抱かされた。

デビュー作でこれほどの作品を上梓したということに驚嘆するし、「今後も追っていく作家リスト」に入ったことは間違いない。

理系、数学……に拒否感のある方も、ぜひ手に取ってみてほしいと思います!

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