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『ブラック・ドッグ/葉真中 顕』ややネタバレ読書レビュー、感想

目的のためには殺人も辞さない過激な動物愛護団体、“DOG”。遺棄動物の譲渡会とペット販売が行われるイベント会場に集まった隆平、栞、結愛と拓人たちは、“DOG”によって会場に閉じ込められ、見たこともない謎の黒い獣に襲われる。

次々と食い殺されていく人間たち。獣から逃げるため、逃走を開始するが―。

というのが冒頭のあらすじ。

物語の序幕から過激な描写が続き、不穏な状態を保ったままストーリーは進行していく。

さっそくややネタバレレビューに移りましょう!

※ややと言いつつ、トリックの説明などの結構なネタバレがありますので、ご注意ください



『ブラック・ドッグ』ややネタバレ感想

視点は複数で進行していく。主人公ははっきりしないが、一応望月栞ということになるのだろうか。

過激な動物愛護団体「DOG」のテロ行為により、イベント会場施設が閉鎖される。

そこに現れたのが、品種改良を重ねた犬「エンジェル・テリア」の不良品(ジャンク)である巨大な黒い犬たち。タイトルの「ブラック・ドッグ」はこの犬から来ていると思われる。また、「イギリスに伝わる黒い犬の姿をした不吉な妖精のこと」という意味があるので、こちらの意味もありそうだ。

黒い犬は高い知性を持ち、作戦どおりに会場に集まった人々を殺戮していく。

絶望に包まれる人々の描写がよく書かれており、ダレることなく緊迫感、緊張感が持続していく。

首謀者は「カルネ・シン」という人物。

途中で教授と少女の二人組が登場し、いかにもこの教授が「カルネ・シン」であるというように進行していく。

少しあからさまなので、「この教授はカルネ・シンじゃないな…」というのはある程度読める。

中学生たちも巻き込まれるのだが、ここに発達障害の少年・拓人もおり、彼は人とは違う「物のカタチ」を見ることができるという特殊能力を持っている。

終盤では栞が彼の力を借りてパソコンのシステムへの侵入を果たすことになる。

また、品種改良犬「エンジェル・テリア」を開発して販売している会社の社長である安東という男も、この事件に巻き込まれる。

この安東はまさに悪という感じで、とてもキャラクターが立っている。こうしたキャラの運命として、死ぬ可能性が高いのだが、終盤でやはり殺害されてしまう。

黒い犬の心理描写がたびたび出てくる点は、とくに不要と思われたのだが、どうだろう。

現実にはいない創造物である黒い犬という設定だけでも突飛なのだけれども、この心理描写によって、ぎりぎり保たれていた現実感が取り払われてしまい、少ししらけてしまった。

余談だが、犬の心理描写といえば、かつて週刊少年ジャンプで連載されていた『銀牙ー流れ星銀』(ぎんがーながれぼしぎん)という漫画があり、それを一瞬思い出した。

そんなこんなで、主人公である栞はシステムに侵入して非常扉を開けることに成功するが、扉が開く直前に黒い犬に襲われて命を落とす。

栞はこの騒動の中、母子を見殺しにした罪悪感に苛まれており、拓人を逃がすことで贖罪を果たす。

得意の叙述トリック

そして犯人のカルネ・シン。

この作者の得意とする叙述トリックが発揮される場面で、子どもと思われていた人物がカルネ・シンその人だったという真相には驚かされる。

驚かされるのだが、この作者のこしらえる設定は多少無理があるな~と感じることがあり、今回もその種のものだった。

発達が止まったとはいえ、皆がそのまま子どもって信じているのもどうなんだろう。それも最初からいたキャラクターではなく、終盤で合流した子どもだし…。思い入れを読者に与えるために、もっと早くから登場していてもよかったような。

でも、意外性がないわけではなく、充分楽しませてくれるトリックだったとは思う。

「DOG」は「種の差別」への痛烈な批判を掲げている団体で、カルネ・シン自身も自分の容姿などを差別されてきたために、こうしたテロ行為をしてのけた。

しかしあれだけの大殺戮をしておいて、最後に逃げ切ってしまったのは釈然としない。

ヘリコプターで逃走するのだけれども、自衛隊かなんかのミサイルで撃ち落とされればよかったのに(おい)。

それはやり過ぎだとしても、あれでは被差別者が悪事を行うのは仕方ない、という考えを肯定しかねないので、彼らにも何らかのペナルティはあって良かったのではないか。

やむにやまれぬ背景があったとしても、少なくとも僕には彼らの行為はまったく共感できなかった。むしろ安東のほうが人間味があって共感できたくらいだ。

といいつつも、全編を通して緊迫感を維持しており、面白く読むことができた。

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