小説新人賞

【小説新人賞さらっと解説】横溝正史ミステリ大賞とおすすめ作品

新しく生まれ変わる老舗ミステリー新人賞

江戸川乱歩賞と同じく、ミステリーの巨匠の名を冠する横溝正史ミステリ大賞

1981年の第1回受賞作から、38回もの長い歴史を持つ老舗のミステリ新人賞。しかし出版不況の中で変革の時機を迎え、現在の形での応募は今回で終了となる。

そして新たに「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」として生まれ変わる

同じKADOKAWA主催の「日本ホラー小説大賞」と統合される形となった。「ホラ大」の名で親しまれたホラー大賞。KADOKAWAの誇る小説大賞のうちふたつが、ひとつの賞となる。

賞の詳細(「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」として)

■雑誌:小説 野性時代、本の旅人。横溝正史ミステリ&ホラー大賞ホームページ

■出版・諸権利:KADOKAWA

■応募内容:広義のミステリ小説。又は、広義のホラー小説。年齢・プロアマ不問。ただし未発表の作品に限る。

■規定枚数:データ原稿:40字×40行で50枚以上175枚以内。手書き原稿:400字詰め原稿用紙200枚以上700枚以内

■賞品:正賞 金田一耕助像。副賞 賞金500万円。受賞作はKADOKAWAより単行本として刊行されます。

■読者賞:一般から選ばれたモニター審査員によって、もっとも多く支持された作品に与えられる賞。受賞作はKADOKAWAより刊行されます。

■締切:9月30日(当日消印有効)

■受賞者の発表:2019年4月に選考会を開催し、最優秀の作品を選定し大賞とします。

■選考委員:綾辻行人、有栖川有栖、黒川博行、辻村深月、道尾秀介

選考委員は一部変更となっている。横溝正史賞から有栖川有栖、黒川博行、道尾秀介が残り、ホラー大賞からは綾辻行人が残っている。じつはホラー大賞の選考委員も貴志祐介、宮部みゆきというミステリ畑の作家たちが務めていた(貴志祐介のデビューはホラ大だけど)。

また、正賞は金田一耕助像。全体的な選考方針としてはややミステリ寄りになりそうだ。

応募するなら

傾向としては社会派、サスペンス、近未来AIものといった、さまざまな趣向の作品が受賞している。固い作風よりはエンターテインメントに重きをおいた作品が大賞を射止めている印象。

しかし次回からはホラー大賞と統合されたこともあり、応募作はミステリだけでなくホラー作品も送られてくるので、激戦は必至と思われる。

応募側としては、ホラー大賞と同じになるからといって、ことさらホラーテイストを意識しなくても良いのではと個人的には考える。

ミステリはミステリとして、ホラーはホラーとして、どちらも「魅力的な謎や恐怖を生みだし、それを読ませる力」があれば受賞に近づくと思っている。

なお、ホラー大賞のシステムである「読者賞」はそのまま残されている。これは一般から選ばれたモニター読者が選考を行い、受賞作を選ぶというもの。モニターの詳細は不明だが、わかり次第こちらでお知らせしたい。



おすすめ受賞作品

それでは最後に、横溝賞おすすめ作品をご紹介。

第36回(2016年度):「虹を待つ彼女」逸木 裕

二〇二〇年、人工知能と恋愛ができる人気アプリに携わる有能な研究者の工藤は、死者を人工知能化するプロジェクトに参加する。

試作品のモデルに選ばれたのは、カルト的な人気を持つ美貌のゲームクリエイター、水科晴。

彼女は六年前、自作した“ゾンビを撃ち殺す”オンラインゲームとドローンを連携させて渋谷を混乱に陥れ、最後には自らを標的にして自殺を遂げていた――

★「虹を待つ彼女」オススメポイント
近未来SFものであり、AI研究者が主人公。AIやコンピュータならではのトリックや展開が楽しめる。

ポイントとしては、少々共感しにくい主人公にどれだけ感情移入できるかどうか。

また、ゲームを題材にしているので、そういった設定に抵抗がなければ没入できるだろう。エンターテインメントとして優れていると感じた。

第34回(2014年度):「神様の裏の顔」藤崎 翔

神様のような清廉潔白な教師、坪井誠造が逝去した。

その通夜は悲しみに包まれ、誰もが涙した。…のだが、参列者たちが「神様」を偲ぶ中、とんでもない疑惑が。

実は坪井は、凶悪な犯罪者だったのではないか…。坪井の美しい娘、後輩教師、教え子のアラフォー男性と今時ギャル、ご近所の主婦とお笑い芸人。

二転三転する彼らの推理は!? どんでん返しの結末に話題騒然!! 第34回横溝正史ミステリ大賞“大賞”受賞の衝撃ミステリ!

★「神様の裏の顔」オススメポイント
作者は受賞時に元お笑い芸人ということで話題になった。

ミステリ的な要素より、ストーリー重視の作品といえる。また、その経歴ゆえに軽妙に筆を進めているといった印象。ラストは賛否ありそうだが、受賞したなりの魅力を感じさせる。

個人的には受賞時の「神様のもうひとつの顔」のほうが、曖昧さを残したタイトルで良いと思った。「裏」とつくといろいろ構えてしまうので…。

第25回(2005年度):「いつか、虹の向こうへ」伊岡 瞬

尾木遼平、46歳、元刑事。職も家族も失った彼に残されたのは、3人の居候との奇妙な同居生活だけだ。

家出中の少女と出会ったことがきっかけで、殺人事件に巻き込まれ……第25回横溝正史ミステリ大賞受賞作。

★「いつか、虹の向こうへ」オススメポイント
ハードボイルドなミステリ。ストーリーテリングに優れており、読者を引っ張る力がある。

主人公とともに疾走している感覚を得られる魅力的な作品。

第22回(2002年度):「水の時計」初野 晴

医学的には脳死と診断されながら、月明かりの夜に限り、言葉を話すことのできる少女、葉月。

生きることも死ぬこともできない彼女が望んだのは、自らの臓器を移植を必要としている人々に分け与えることだった――。

★「水の時計」オススメポイント
臓器移植がテーマで、扱う話は重め。しかし不思議な筆致でつづられるストーリーは、悲しいけれど爽やかな印象を与える。

ミステリー度は低いかもしれないが、ひとつの物語としての完成度は高い。

第19回(1999年度):「T.R.Y(トライ)」井上尚登

激動の時代の裏側、そこにいたのは希代の詐欺師――。革命という情熱にうなされる怪男児。

広大な大陸と海原を貫き、歴史の時を刻もうとした、疾走する情熱、凄絶な正体。明治時代末期の中国・日本を舞台に繰り広げられる波瀾万丈のドラマ。

★「T.R.Y」オススメポイント
明治時代の日本人詐欺師が主人公。魅力的な人物造形とテンポのいい展開に、ページを繰る手が止まらない。スケールも大きく、満足度の高い作品といえる。

第18回(1998年度):「直線の死角」山田宗樹

やり手弁護士・小早川に、交通事故で夫を亡くした女性から、保険金示談の依頼が来る。

事故現場を見た小早川は、加害者の言い分と違う証拠を発見した。第18回横溝正史賞大賞受賞作。

★「直線の死角」オススメポイント
「嫌われ松子の一生」で名を馳せた作者のデビュー作。

交通事故と保険という、作品的にはありふれており地味ではあるが、着実に話を進めていく。この手の話が好きな方なら気に入るだろう。

第1回(1981年度):「この子の七つのお祝いに」斎藤 澪

とおりゃんせ とおりゃんせ ここはどこの 細道じゃ…母から娘へ 一枚の手型が奏でる“殺し”の子守唄。

★「この子の七つのお祝いに」オススメポイント
記念すべき第一回の受賞作。映画化もされ、当時話題になった。

ミステリーというよりはサスペンス寄りだが、世界観は横溝正史を継ぐものといえる。今読んでも楽しめる良作。


以上、おすすめ作品でした!

江戸川乱歩賞に比べると、受賞者は第二作以降に苦戦している印象がある。さまざまな作風に賞を与えるその懐の広さが、賞として逆に芯が定まっていないということなのだろうか。

現在、この形での最後の選考が進んでいる。選考の進行状況は「横溝正史ミステリ大賞」のサイトで確認できる(画面左の方に一覧あり)。

はたしてどんな作品が大賞を射止めるのか、大いに楽しみにしています。

そして次回から生まれ変わる「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」。そちらもとても期待しています!

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