小説新人賞

【小説新人賞さらっと解説】『このミステリーがすごい!』大賞とおすすめ作品

勢いのあるミステリー新人賞

2018年時点で第17回目を迎える、比較的新しいミステリー新人賞。

大賞、優秀賞、かくし玉、さらには超かくし玉というように、即戦力はもちろん、将来有望と見極めた作家に賞を与え、新鋭作家を続々と輩出している注目の新人賞だ。



『このミステリーがすごい!』大賞詳細

■サイト:『このミステリーがすごい!』大賞

■出版・諸権利:宝島社

■応募内容:エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー。『このミステリーがすごい!』エントリー作品に準拠、ホラー的要素の強い小説やSF的設定を持つ小説でも、斬新な発想や社会性および現代性に富んだ作品であればOKです。

また時代小説であっても、ミステリーとしての要素や冒険小説的興味を多分に含んだ作品であれば、その設定は問いません。

■第18回より、映像化を前提としたU-NEXT・カンテレ賞を新設いたします。この賞は動画配信及びテレビ放送でのドラマ化を前提とした作品を、大賞・優秀賞以外の全応募作品より選ぶものです。

■規定枚数:データ原稿:40字×40行で100枚~163枚の原稿(枚数厳守・手書き原稿不可)

■賞品:
大賞:1200万円
優秀賞:200万円
U-NEXT・カンテレ賞:100万円

■読者賞:一般から選ばれたモニター審査員によって、もっとも多く支持された作品に与えられる賞。受賞作はKADOKAWAより刊行されます。

■締切:5月31日(当日消印有効)

■受賞者の発表:毎回10月上旬にサイト上で発表

■選考委員:大森望、香山二三郎、吉野仁

選考委員は書評家が務めている。

賞金の高さは国内随一で、乱歩賞の1,000万円を超える金額は魅力的。

応募するなら

ミステリーという名を冠してはいるが、その懐は広く、募集要項でもエンターテインメント性が重視されていることがわかる。

とはいっても、まったくミステリー要素がない場合は落とされるので、しっかりと謎の提起をして、解決に導くという手続きは踏みたいところ。

また、キャラクター性の高い作品ばかりが選ばれている印象はあるが、しっかりとしたストーリーを構築したり、その作品ならではの雰囲気(世界)を創り出したりしている作品も多い。

なによりも、ミステリーやエンターテインメント作品としての「面白さ」を追求した賞といえるだろう。

なお、2018年締め切りの第17回から映像化を前提としたU-NEXT・カンテレ賞が新設されました。大賞・優秀賞以外の全応募作品から選ばれるとのこと。

U-NEXTは株式会社U-NEXTが運営する映像配信サービス。映画(洋画・邦画)、ドラマ(海外ドラマ、国内ドラマ)、アニメ、バラエティ等を配信している。

映像化された作品はネットとテレビの両方で放送されるということかもしれない。そうなれば受賞作にとって大きなプラス材料となりそう。

初めてのU-NEXT・カンテレ賞は1次選考通過作(2次落選)から選ばれました。ある程度の成果を残せれば、可能性があるということですね。

おすすめ受賞作品

それでは『このミステリーがすごい!』大賞のおすすめ作品をご紹介。

第15回(2016年度):「がん消滅の罠 完全寛解の謎」岩木一麻

呼吸器内科の夏目医師は生命保険会社勤務の友人からある指摘を受ける。

夏目が余命半年の宣告をした肺腺がん患者が、リビングニーズ特約で生前給付金を受け取った後も生存、病巣も消え去っているという。

同様の保険金支払いが続けて起きており、今回で四例目。不審に感じた夏目は同僚の羽島と調査を始める。

連続する奇妙ながん消失の謎。がん治療の世界で何が起こっているのだろうか―。

★「がん消滅の罠 完全寛解の謎」オススメポイント

2018年4月に唐沢寿明主演でドラマ化。

何よりも、がん消滅のトリックに注目したい。意外性とそのロジックは特筆もの。

反面、キャラクターはやや平凡。そのため動きの少ないストーリー展開となってしまっていて、少々ダレる危険性も。

総合ポイントは高めで、このミス大賞なら読んでおきたい作品には違いない。

第12回(2013年度):「一千兆円の身代金」八木圭一

元副総理の孫が誘拐された。

日本政府に突きつけられた犯人からの要求は、財政赤字とほぼ同額の1085兆円の支払いか、巨額の財政赤字を招いた責任を公式に謝罪し、具体的再建案を示すかの二択だった―。

警視庁は捜査一課特殊犯係を直ちに全国に派遣し、国家の威信をかけた大捜査網を展開させる。

やがて捜査陣は、あるブログを見つけるが…。

★「一千兆円の身代金」オススメポイント

2015年に香取慎吾主演でドラマ化。

身代金が一千兆円というインパクトは絶大。

熱量の高さが伝わってきて、その「熱さ」が物語を牽引していく。壮大な風呂敷を収斂させていく手際もよい。

こちらも読んでおきたい作品。

第8回(2009年度):「さよならドビュッシー」中山七里

ピアニストを目指す遥、16歳。

両親や祖父、帰国子女の従姉妹などに囲まれた幸福な彼女の人生は、ある日突然終わりを迎える。祖父と従姉妹とともに火事に巻き込まれ、ただ一人生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負ってしまったのだ。

それでも彼女は逆境に負けずピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。

ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する―。

★「さよならドビュッシー」オススメポイント

2013年に橋本愛主演で映画化。2016年に東出昌大主演でドラマ化。

音楽ミステリーの必読書のひとつに加えられても良い作品。文章も読みやすく、ストーリーに乗っていける。

ミステリーを読み慣れている人なら早い段階でトリック自体は見破れるだろうが、意外性は大きい。

第7回(2008年度):「臨床真理」柚月裕子

新進気鋭の臨床心理士・佐久間美帆と、神から与えられたとも言われる「共感覚」を持つ青年・藤木司が、声の色で感情を読み取る力を使い、知的障害者施設で起こった少女の自殺の真相を追う!

★「臨床真理」オススメポイント

大藪春彦賞、推理作家協会賞を受賞し、硬派な作風で知られる著者のデビュー作。

その後の活躍の片鱗が、この作品でも発揮されている。障がい者を扱うテーマは難しいと思うが、最後まで温かいトーンで見つめる著者に真摯さを感じた。

ミステリーには多少無理のある結末だが、おすすめ作として推しておきたい。

第4回(2005年度):「チームバチスタの栄光」海堂 尊

心臓移植の代替手術“バチスタ”手術専門の天才外科チームで原因不明の連続術中死が発生。

不定愁訴外来の田口医師は、病院長に命じられて内部調査を始めた。そこへ厚生労働省の変人役人・白鳥圭輔がやってきて…。

『このミステリーがすごい!』大賞を受賞したのち「SUGOI JAPAN Award 2015」の国民投票で、過去10年間のエンタメ小説の中からベストテンにも選出された傑作医療ミステリー。

★「チームバチスタの栄光」オススメポイント

「このミス大賞」を一躍有名した作品。

2008年に竹内結子主演で映画化。同2008年に伊藤淳史主演でドラマ化。

謎の提示、個性的なキャラクターの活躍、中盤の盛り上がり、そして結末と、ストーリーは流れるように進行していく。

このミス大賞を語るのなら、まずこの作品を読んでおきたい。

第1回(2001年度):「四日間の奇蹟」浅倉卓弥

脳に障害を負った少女とピアニストの道を閉ざされた青年が山奥の診療所で遭遇する奇蹟。

ひとつの不思議なできごとが人々のもうひとつの顔を浮かび上がらす…. 

★「四日間の奇蹟」オススメポイント

記念すべき第一回受賞作。

2005年に吉岡秀隆主演で映画化。

某有名作家の某有名作に似た設定ではあるが、独自のテイスト、雰囲気を創り出すことに成功している。

初の受賞作ということで、おさえておきたい。



このミス大賞作品は注目度が高く、多くが映画化、ドラマ化されている。

ここでは触れなかったが、隠し玉を含めて個性的でとがった受賞作が多い印象だけに、「どこか普通でない」作品が評価される新人賞。

賞金、映像化なども考慮すると、国内でも屈指の小説新人賞といえる。

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