小説新人賞

ベストセラー小説をアルゴリズムで解析!『ベストセラーコード』読書レビュー、感想

小説家志望者として気になる本ということで、『ベストセラーコード』を読んでみました!

ベストセラー小説をコンピュータで解析し、それらに共通する特徴があるかどうかを解明するという試みです。

こんなことができたらベストセラー間違いなし! の小説が書けてしまうわけですが、実際のところどうだったのでしょうか。

まず、目次は下記。

【第1章】 ベストセラーメーター:テキスト・マイニングは出版を変えるか

【第2章】 代父母(ゴッドペアレンツ):日常の何気ない時間を大切にする

【第3章】 センセーション:完璧なカーブをどうやってつくるか

【第4章】 デビュー:句読点は語る

【第5章】 ノワール:「ガール」は何を求めているのか

【第6章】 1冊を選ぶ:アルゴリズムがウィンクするとき

・アルゴリズムが選んだトップ100[総合部門]

【エピローグ】機械が小説を書く:なぜ作家でなければだめなのか

【追記】手法について



第1章

もともとの発端は「ベストセラーは予測できるか」ということから始まったプロジェクト。第1章ではそのあたりの経緯等を綴っています。

テキストマイニングと機械学習を利用し、アメリカでベストセラーになった小説と売れ行きの芳しくなかった小説を比較しています。

まずはベストセラーとなった小説をコンピュータに読ませ、パターンを学ばせます。そうして学習することにより、ベストセラー作品の持つ特徴を読み解くということですね。

そしてコンピュータは、ベストセラーとなり得る小説を「90%以上」という高い精度で判定できるようになります。

実に面白い試みだと思いました。

第2章:テーマ

第2章では「代父母(ゴッドペアレンツ):日常の何気ない時間を大切にする」として、アルゴリズムはテーマについてある解答を導き出します。

それは、3つか4つの中心的なテーマ(トピック)が全体の30%を占める本が売れるということ。そのテーマが下記の5つ。

  1. 人間同士のつながりを感じさせる親密な関係
  2. 家庭
  3. 仕事
  4. 子どもの学校生活
  5. 最新テクノロジー

まずは「親密な関係」。これが特に重要。それ以下は家庭~最新テクノロジーとなっています。

「人間同士の親密な関係」は、これだけで愛情、好意、友情、憎悪、嫉妬……さまざまな感情が喚起されるため、とても納得のいく結果です。

そして2番目以降も、突き詰めれば「人との親密な関係」に繋がっていきます。なので、やはりこのポイントを丁寧に書き込むことが大切ですね。

第3章:プロット

第3章はプロットです。

ベストセラーのプロットラインは山と谷が、規則正しくリズムを刻んでいます。三幕構成のプロットラインが読者を惹きつけ、感情の起伏の上下する様が綿密に設計されている必要があります。

作品中の感情の起伏と時間の流れをグラフ化したのが上記です(2作品の記載がありましたので、それぞれタイトルは消しています)。

縦軸が感情で、グラフの谷が「困難な状況」、グラフの山が「幸福な状況」になります。横の軸は「時間の流れ」です。

いずれもベストセラー作品ですが、見事に谷と山がリズミカルに連動しています。

そしてラストは、片方がハッピーエンド、もう片方がビターエンドになっています。結果のはっきりとしたものが好まれることがわかります。

ストーリーの推進方法をもう少し具体的に言うと、異質なものを並べて衝突を示唆し、ストーリーを動かす燃料とする。どうやってこの状況を乗り切るのだろうかと読者に思わせることが大事です。

第2章で言及した、読者をひきつける大きなトピックがひとつ。2つ目以降は現状を脅かすような衝突を示すものが良いとあります。

そして、息継ぎの日常描写もあったほうが良い。すべてが衝突だと読む方も疲れてしまいますからね。

できあがった作品は、「もう読まずにはいられないの!」という牽引力のあるものが望ましいです。こうなったらもう、しめたものですね。

第4章:文体

第4章は文体。

日常的に使われるような、くだけた言葉、文章の一つ一つが短く区切られ、伝わりやすい表現がベストセラー作品には多く見られる。テンポが重要ということでしょう。

第5章:キャラクター

第5章はキャラクターです。

強いキャラクターには行為主体性(エージェンシー)がある。パワーがあり、動機があり、推進力がある。その力を駆使して何をするか、そしてどういう邪魔が入るか、というのが、キャラクター重視の小説の読みどころと説きます。

そして主人公は必ず何かを必要としていて、それを表明している。必ず何かをほしがっていて、読者は主人公が求めているものを知る。

つまり「need」と「want」という動詞を使うということです。

主人公は困難を乗り越えながら、フィクションの世界に浄化をもたらす行為主体者です。彼らがそれを成し遂げるのを見るのは読者の楽しみのひとつだと言えるとして、ポジティブな印象を与える動詞が多用されていると解析しました。

さらに、最近のベストセラーの傾向として「ガール」をタイトル、主人公に据えた作品が多いと指摘します。

『Gone Girl』、『The Girl With the Dragon Tattoo』、『The Girl on the Train』といった作品です。

彼女たちは、これまで外の世界で繰り広げられていた「対立」を家庭にも持ち込みます。そうすることによって重要なテーマである「親密な人間関係」が自然と描かれるというわけですね。

まとめ

第6章ではアルゴリズムが選んだトップ100作、そしてエピローグではやはりAIではなく作家の書いた文章を読みたいという論調で幕を閉じます。

さらにラストでは、監修者の統計家である西内啓氏が忠告します。この本はアメリカ市場を分析したものであって、日本人に身近ではないテーマで小説を企画しても売れるとは約束できない(当たり前のことではありますが、大事な点ですね)。

また、この本が否定的な見解を示しているテーマのひとつである「宇宙での戦い」もテクノロジーの進歩で身近なものになるかもしれない。

市場や時代の変化によって、売れる本も同じように変化するということですね。

したがって、書く側の立場としては、人が根源的に求めるテーマはもちろんのこと、常に最新の市場動向や流行にも目を向ける必要があるということでしょう。

個人的には面白く読め、参考になる部分もありました。小説家志望の方は、一読してみても損はないかな、と思います。もちろんこの本で行われている解析はある意味「ただのパターン」ですので、その点は留意して読まなければならないでしょう。

それらを踏まえ、僕も小説の創作に取り入れてみたいと思います!

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